日本水産学会誌掲載報文要旨

電解海水を用いた蓄養によるウニ内臓からの Vibrio parahaemolyticus 除菌効果について

木村 稔,三上加奈子,干川 裕,
森 立成(道中央水試),
笠井久会,吉水 守(北大院水)

 ウニ内臓からの腸炎ビブリオ Vibrio parahaemolyticus(以下本菌)除菌を目的に,ウニを電解海水で蓄養し,生殖巣,消化管及び内容物を含む内臓の本菌生菌数ならびに一般生菌数を測定した。本菌を 3 % 食塩水に懸濁し電気分解した場合,有効塩素濃度が 0.23 mg/L,1 分間の処理で 99.99% 以上殺菌された。有効塩素濃度 0.76 mg/L の電解海水でキタムラサキウニ Strongylocentrotus nudus を 1〜2 日間蓄養した場合,大量の糞が放出され,本菌生菌数や一般生菌数が一桁以上減少した。

日水誌,72(1), 1-5 (2006)

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沖縄島に水揚げされるニセクロホシフエダイの体長組成と資源評価

下瀬 環,立原一憲(琉球大理)

 沖縄島の漁港に水揚げされたニセクロホシフエダイの体長と価格を調べ,本種の資源状態について評価し,適正な資源管理の方法について考察した。本種は,1 歳時の 7〜9 月に多くの個体が漁獲され始めるが,この時期における 1 歳魚の価格は低かった。これらは,成長して 10〜12 月に価格を増し,翌年には成熟する。以上より,7〜9 月に価値の低い 1 歳魚に相当する体長 180 mm 未満の漁獲を抑制すれば,価値が高く成熟した個体が増え,資源の有効利用ができると考えられた。また,本種の生残率は,漁獲曲線から 77.3%/年と推定された。

日水誌,72(1), 6-12 (2006)

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収集用シュート内におけるイカの吸盤吸着防止方法

陳 瑞輝,戸田勝善,矢田貞美(海洋大)

 本論文では,イカ釣漁船の収集作業におけるシュート内でのイカの吸盤吸着力を低減させるため,吸盤とシュートの接触低減,吸盤内の密閉防止の観点から 3 つの吸着防止方法を提案した。これに基づいた吸着防止方法有(3 方法)および防止方法無のシュートをそれぞれ試作した。これら 4 種類のシュートを用いて活イカの吸盤吸着力,イカ魚体とシュート間の摩擦力,およびその両者を合計した総合的な摩擦力について計測し,評価を行った。この結果より,提案した吸着防止方法の有効性が確認できた。

日水誌,72(1), 13-20 (2006)

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ホソアオトビの卵の形態と九州近海における産卵期

一丸俊雄,水田浩二(長崎水試),
中園明信(九大院農)

 1998〜2004 年の 4〜8 月に長崎県五島列島沖および鹿児島県屋久島沖で採集したホソアオトビ Hirundichthys oxycephalus の卵を顕微鏡下で観察した。本種の卵は片側に直径 20 μm の纏絡糸が 1 本と 10 μm の纏絡糸が 5〜7 本,その反対側に 6 μm の纏絡糸を 9〜14 本有しており,H. coromandelensis の卵に似た形状をしている。纏絡糸の径は H. coromandelensis よりホソアオトビの方が細く,これによって 2 種を区別することが可能と考えられた。卵の出現は鹿児島県では 5〜7 月,長崎県では 7〜8 月であり,水温により産卵期は異なるものと考えられた。

日水誌,72(1), 21-26 (2006)

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メバルの磁気感覚

西 隆昭,川村軍蔵(鹿大水)

 地磁気情報を手掛りに近距離回帰すると示唆されているメバル Sebastes inermis の磁気感覚を心電図条件付け法によって調べた。192,473 nT の強さの水平及び鉛直人工磁気で条件付けされたメバルは 2,533 nT まで 6 段階の水平及び鉛直人工磁気に対して有意に心拍間隔が伸びる条件反応が認められた。人工磁気 2,533 nT は地磁気水平成分と鉛直成分のそれぞれ 0.08 倍に相当する。メバルは高感度の磁気感覚をもつことは明らかで,地磁気を手掛りに近距離移動する能力を持つ可能性が示された。  

日水誌,72(1), 27-33 (2006)

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アユ精子の凍結保存方法

津高窓加(近大院農),
山本慎一,仲 和弘,清水寿一,
中村元二,滝井健二(近大水研),
太田博巳(近大院農)

 ストロー法によるアユ精子の凍結保存方法の開発を目的として,精子を希釈する保存液の組成(凍害防御剤の種類と濃度,希釈液の種類),冷却速度と液体窒素に浸漬する前の到達温度について,解凍した精子の運動比率を指標として検討した。保存液は 10% methanol+90% FBS が適していた。冷却速度は 42.5℃C/min,到達温度は−50℃C で最も高い運動率を示した。解凍後,運動開始までの時間が長引くほど,運動率は低下する傾向を示した。上述の方法で凍結・解凍した精子は,新鮮精子に比べてやや長い運動時間を示した。

日水誌,72(1), 34-40 (2006)

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超高周波スプリットビームシステムによるターゲットストレングスの計測

黄 普奎,古澤昌彦(海洋大)

 動物プランクトンのターゲットストレングス(TS)計測用に開発した 1.1 MHz スプリットビーム(SB)システムの計測能力を総合的に検討した。直径 2 mm の較正球による標準球較正法が高周波にも容易かつ精確であることを確認した。システムの探知範囲を調べ,多周波プランクトン計測装置(TAPS-6)と共通の範囲を計測できることを確認した。擬似散乱体として 3 種の微小なタングステンカーバイド球の TS 計測を行った結果,1 MHz 程度の動物プランクトン計測用の超高周波 SB システムの実用化が可能なことを確認した。

日水誌,72(1), 41-49 (2006)

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ヒラメ Paralichthys olivaceus 稚魚の食物組成と摂餌強度にみられる地域性

田中庸介(水研セ遠洋水研),大河俊之(高知水試),
山下 洋,田中 克(京大フィールド研セ)

 長崎から北海道までの 12 地点でヒラメ稚魚の食物組成および摂餌強度の地域性を検討した。稚魚は主にアミ類,仔稚魚類,エビジャコ類,ヨコエビ類を摂餌し,ヒラメ稚魚の食物組成は主に環境中に多く出現したアミ類で占められていた。環境中のアミ類の出現種および分布量は 1〜10 種,3.0〜1712.8 mg/m2 と変化し,主要種は地点によって変化した。全ての餌に対する胃充満度とアミ類生物量との間に一定の関係は認められなかったが,アミ類のみの胃充満度は生物量約 200 mg/m2 までは生物量に対応して増加した。アミ類生物量はヒラメ稚魚の食物組成と摂餌強度に影響を与えると考えられた。

日水誌,72(1), 50-57 (2006)

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魚肉水溶性画分のプロテアーゼ阻害活性並びにスケトウダラ冷凍すり身の戻り抑制効果

下元 哲,野村 明,北村有里(高知工技セ),
伊藤慶明(高知大農)

 表層魚及び底棲魚各 5 種の普通肉中の水溶性タンパク質を硫安分画し,セリンプロテアーゼ(S)とシステインプロテアーゼ(C)に対する阻害を調べた結果,S 阻害活性が全魚種の 50-60% 飽和画分に認められ,同画分には C 阻害活性が 6 魚種に認められた。この画分を S と C の活性のあるスケトウダラ冷凍すり身に添加し,40℃C での戻り及びタンパク質の分解に対する抑制効果を検討した結果,マエソ以外の魚種では戻り及びミオシン重鎖の分解を抑制し,その効果は表層魚より底棲魚の方に強い傾向があり,特に,カナド及びトゲカナガシラは強かった。

日水誌,72(1), 58-64 (2006)

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活鰻の加圧処理が白焼の品質に及ぼす影響

永井 慎(名城大生薬セ),
進藤 穣,御木英昌(鹿大水)

 加圧処理した活鰻の割身を 5℃C で 1 日貯蔵後に加熱した場合,その白焼の品質が通常の白焼品に相当するか検討した。処理区における割身の ATP 含量は,貯蔵 48 時間まで 5.0 μmol/g 以上を保持し,IMP 含量は,24 時間後に最大値の 5.6 μmol/g を示した。また,pH 値は 30 時間まで pH 7.2 を保持した。処理区の割身は貯蔵 24 時間後に加熱すると,即殺した対照と同等の肉の盛り上がりと旨味が得られた。したがって,加圧処理はウナギ割身の一時保管を可能にし,割き職人の人手不足解消に対応できると考えられた。

日水誌,72(1), 65-69 (2006)

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長崎産ボラ卵巣およびからすみの成分評価

伊藤克磨(長大院生産),松嶋はるか(長大水),
野崎征宣(長大水),大迫一史(長崎水試),
松林法寛(長大水)

 これまでからすみ市販製品についてその特性を明らかにする研究例がないことから,市販品及びその原料卵巣の粗脂質含量,粗タンパク質含量,脂質クラスの成分分析を行った。市販品は,個体差は大きいものの成熟度の高い原料を用い,粗脂質およびワックスエステル含量の高い製品が製造されている。トリアシルグリセロールは,過去の測定例と比較して高い含量を示した。からすみ製造過程で,脂質はタンパク質と同様に分解する。ワックスエステルの分解は明らかにできながったが,からすみ製造過程で酵素分解による脂質の分解が起こり,トリアシルグリセロールは減少し遊離脂肪酸は増加する。

日水誌,72(1), 70-75 (2006)

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pH 調整したアリザリン・コンプレクソン溶液の希釈によるハタハタ稚魚の耳石標識(短報)

友田 努(水研セ能登島),桑田 博(水研セ本部)

 全長約 30 mm のハタハタ稚魚を 5 段階の pH 値(5, 6, 7, 8 および 9)に調整したアリザリン・コンプレクソン(ALC)溶液の希釈海水(pH 7.57〜7.81)に浸漬し,耳石標識を行った。浸漬方法は,ALC 濃度 40 mg/L で浸漬時間 22 時間とした。全区とも 95% 以上の稚魚が生残し,観察した各実験区 10 尾の耳石すべてにおいて蛍光リングの装着を確認できた。耳石の染色状態は pH 6, 7, 8 および 9 の 4 区間で差は認められなかったが,pH 5 区のみは他 4 区よりも明瞭に濃く染色された。

日水誌,72(1), 76-78 (2006)
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