日本水産学会誌掲載報文要旨

北海道東部大平洋岸浜中湾砂浜域における底棲等脚類シオムシTecticeps glaberの分布と個体群構造

宇田川徹(水研セ北水研),吉田秀嗣(釧路水試),
城野草平(釧路水試)

 北海道東部太平洋岸浜中湾砂浜域で等脚目甲殻類シオムシTecticeps glaber の分布と個体群構造を調べた。浜中湾のシオムシ密度は波浪の影響が大きい撹乱域で高く,波浪の影響が小さくオオアマモ群落が形成される静穏域と水深10m以深とでは低かった。撹乱域の年平均密度は893個体/m2で,最大は9月の2,060個体/m2であった。シオムシ個体群は0+・1+・2+の3つの年級群で構成されていた。0+群は9月から12月にかけて加入し,ピークは9月であった。9月の高密度は0+群の加入によるものであった。

日水誌,70(4), 516-522 (2004)

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三重県松名瀬沿岸におけるアマモ群落の構造と季節変化

阿部真比古,橋本奈央子,倉島 彰,
前川行幸(三重大生物資源)

 三重県松阪市松名瀬沿岸のアマモ群落の構造と季節変化を明らかにするため,2年間にわたり層別刈り取り,生育段階別株密度および草体長等を調査した。松名瀬沿岸のアマモ群落の季節変化は,10〜3月の分枝・発芽・伸長期,3〜6月の開花・結実期,6〜9月の衰退期に分けることができた。アマモの群落動態を規制する要因は水温の変化および種内競争が強く示唆された。また,多年生アマモ群落は種子による有性繁殖よりも分枝生長による栄養繁殖により維持されていると考えられた。

日水誌,70(4), 523-529 (2004)

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土佐湾におけるヨシエビ Metapenaeus ensis の成長と移動

阪地英男(水研セ中央水研),小松章博(高知県海洋局)

 土佐湾におけるヨシエビの成長と移動を明らかにした。土佐湾に接続する浦戸湾の干潟では,頭胸甲長(CL)は5〜7月に9〜29mmであったが,7〜10月に3〜20mmへと小型化した。土佐湾における小型底曳き網漁船漁獲物では,CLは4月では雌30〜45mmと雄25〜35mmであったが,7月には雌35mm以下と雄30mm以下へと小型化した。土佐湾には稚エビが棲息しないことから,7月までに前年発生群の浦戸湾の干潟から土佐湾への移動が考えられた。また,寿命は最大で2年であると考えられた。

日水誌,70(4), 530-536 (2004)

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伊勢湾から分離された Flavobacterium sp.によるKarenia mikimotoi の殺藻

岩田友三,菅原 庸,木村俊夫,河和寛恵,
松本暁人,則武健太郎(三重大生物資源)

 渦鞭毛藻 Karenia mikimotoi を殺藻する細菌 MA10 株が伊勢湾(三重県)から分離され,Flavobacterium sp.と簡易同定された。MA10株はラフィド藻3種( Chattonella antiqua, Chattonella marina, Heterosigma akashiwo )と珪藻類1種(Skeletonema costatum )の増殖を阻害することができなかった。そのため,MA10株は K. mikimotoi を特異的に殺藻する細菌であることが示唆された。MA10株を K. mikimotoi の培養に接種すると,細菌数は急激に増殖して K. mikimotoi を殺藻した。自然細菌群が共存する K. mikimotoi にMA10株を接種した場合,MA10株の初期接種量が1.1×102cfu/ml 以上で K. mikimotoi を殺藻した。このため,MA10株は現場海域でも K. mikimotoi に対して殺藻能を有する可能性が示唆された。

日水誌,70(4), 537-541 (2004)

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マダイ仔魚の成長および飢餓耐性に及ぼすタウリン強化ワムシの効果

陳 昭能,竹内俊郎(海洋大),高橋隆行(日清丸紅),
友田 努,小磯雅彦,桑田 博(水研セ能登島)

 タウリンで強化したワムシをふ化から20日齢までマダイに給餌することにより,タウリンの有効性を検討した。マダイ仔魚中のタウリン含量は対照区,タウリン強化区でそれぞれ37, 252mg/100gとなり,6.8倍の差となった。マダイの成長をみると,20日齢では対照区,タウリン強化区でそれぞれ全長6.26, 6.99mmとなり,有意差が認められた。飢餓耐性試験においても差が認められ,タウリン強化区が優れていた。本研究結果からマダイ仔魚に対してタウリンが有効であることが明らかとなった。

日水誌,70(4), 542-547 (2004)

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まぐろ消費に伴う大気汚染物質 LCI

南  亘,安井邦洋,中野勝行,金 煕濬(豊橋技大)

 まぐろ消費に伴う環境影響を知るために大気汚染物質の排出量のライフサイクルインベントリ(LCI)構築を行った。得られた結果は以下である。1.漁獲段階が国内輸送,加工・販売,調理,下水処理,廃棄に比べて大きな大気汚染物質を排出していた。2.まぐろ漁の大気汚染物質排出量の変化は漁場によるものであった。3.輸入方式は大気汚染物質排出量に大きく影響した。4.食品の可食部割合の変化は,大気汚染物質排出量に影響した。

日水誌,70(4), 548-554 (2004)

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有明海沿岸の貝類を用いた有機塩素化合物,多環芳香族炭化水素および有機スズ化合物の汚染モニタリングとトリブチルスズによる巻貝生殖器官への影響

中田晴彦,小林 悟,平山結加里,
境 泰史(熊本大院自然科学)

 近年,有明海では漁獲量の減少,赤潮の発生,養殖ノリの色落ちなど水産資源をめぐる問題が顕在化しており,その要因の一つに化学汚染による生態系への影響が疑われている。そこで,有明海の貝類を対象に有機塩素化合物,多環芳香族炭化水素,有機スズ化合物の汚染調査を行った結果,一部の河川において顕著な汚染源の存在が明らかとなった。巻貝の生殖器異常が高い頻度で観察され,船底塗料由来のトリブチルスズによる影響が示唆された。

日水誌,70(4), 555-566 (2004)

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ガザミ種苗生産におけるメガロパ期の大量死とゾエアの形態形成の関係

荒井大介(水研セ玉野),浜崎活幸(水研セ八重山),
丸山敬悟,小畑泰弘,津村誠一,高野宏嗣(水研セ玉野)

 ガザミ種苗生産におけるメガロパ期の大量死とゾエアの形態形成の関係を調べた。幼生の生残率は,第4齢ゾエアから第1齢稚ガニまでの期間の方がふ化から最終齢(第4齢)ゾエアまでの期間に比較して低い値を示し,メガロパ変態時の脱皮異常率が高い場合に大きく低下した。メガロパ変態時の脱皮異常率と第4齢ゾエアの頭胸甲長に対する鋏原基長の比の間には,有意な正の相関関係が認められた。このように,形態形成が過剰に進行したガザミのゾエアはメガロパへ正常に脱皮できず,大量死する割合が高いことが明らかになった。

日水誌,70(4), 567-572 (2004)

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増殖ステージが異なるシオミズツボワムシのマダイ仔魚に対する餌料価値

友田 努,小磯雅彦,桑田 博(水研セ能登島),
陳 昭能,竹内俊郎(海洋大)

 一般的なワムシ培養法の一つである植え継ぎ培養において,増殖ステージに伴う餌料価値の質的変化について検討した。培養日数2, 4, 6および8日目のワムシを同一条件で栄養強化したところ,8日目のワムシは栄養強化中の死亡個体率が有意に高くなり,生理活性の指標である総卵率が低くなった。また,そのような8日目ワムシを摂餌したマダイ仔魚の成長は他の実験区より有意に劣った。これらのことから,植え継ぎ培養において増殖停滞期または,その直前に収獲されたワムシを栄養強化しても,餌料としての質は劣ることが明らかになった。

日水誌,70(4), 573-582 (2004)

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mtDNA の PCR-RFLP 分析によって明らかになったハタハタ集団の地理的分化

柳本 卓(水研セ北水研)

 ハタハタの漁獲量減少に伴い種苗放流などの増殖事業が盛んに行われているが,系群や遺伝的変異性を考慮して実施されていない。そこで,PCR-RFLP分析によりハタハタmtDNAの地理的変異性を検討した。mtDNAのD-Loop領域と12-16S rRNA領域をPCR法にて増幅し,RFLP分析を行った。D-Loop領域ではDpnII, 12-16Sr RNA領域ではHaeIIIで得られた切断型頻度に地理的な変異性が見られた。ハプロタイプの出現頻度から,日本海-根室群,太平洋群の2つの集団に分けることができた。

日水誌,70(4), 583-591 (2004)

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駿河湾におけるサクラエビ Sergia lucens の資源量推定

福井 篤,原 藤晃,伊藤大輔(東海大海洋),
保正竜哉(日本エヌ・ユー・エス(株)),
魚谷逸朗(東海大海洋)

 1998年級から2001年級までのサクラエビの資源量を,体長組成および漁獲量データなどに基づいて,Virtual population analysisによって推定した。各年級の漁獲加入時の資源尾数(重量)は1998年級で97.3億尾(2,475トン),1999年級で103.0億尾(2,195トン),2000年級で82.5億尾(2,288トン),および2001年級で71.9億尾(1,856トン)であった。これらは1961〜1965年級の1/20〜1/4程度の水準であった。

日水誌,70(4), 592-597 (2004)

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マガキ,ホタテガイおよびムラサキイガイにおける麻痺性貝毒の蓄積と減毒の差異

高田久美代,妹尾正登,東久保靖(広島保環セ),
高辻英之,高山晴義(広島水試),小川博美(広島保環セ)

 マガキ,ホタテガイおよびムラサキイガイにおける麻痺性貝毒の蓄積と減毒過程の差異を明らかにするため,原因プランクトンAlexandrium tamarense の消長とこれら貝類の毒力と毒組成の推移を調べた。毒力の推移は貝種によって大きく異なり,マガキはA. tamarense が消滅すると1〜2週間後に毒力が不検出となり,ホタテガイやムラサキイガイに比べて毒の低下が早く,蓄積する毒力も最も低かった。毒組成の推移も貝種によって異なった。貝種による毒化と減毒の差異には毒組成の違いが関与していると考えられた。

日水誌,70(4), 598-606 (2004)

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ブリのペプシン様およびトリプシン様酵素の消化作用とそれら酵素活性の季節変化(短報)

佐藤公一(大分海水研セ)

 ブリの胃 pepsin 様酵素および幽門垂 trypsin 様酵素の試験管内における魚粉(FM)および生魚肉(RF)に対する消化作用とこれら酵素の活性の季節変化を測定した。試験管内消化は,両酵素ともにRFの分解がFMより著しく速やかであった。Pepsin様酵素活性は当歳魚の8月から3月にかけて水温の低下に伴い低下し,trypsin様酵素活性は当歳魚,2年魚ともに11月〜5月の低温期に著しく低下した。ブリの配合飼料と生餌のタンパク質消化吸収率に,これらの両消化酵素の作用特性と酵素活性の季節変化が結びついていると推察された。

日水誌,70(4), 607-609 (2004)

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