日本水産学会誌掲載報文要旨

栃木県那珂川における両側回遊型アユの遡上日と遡上群数の予測

中村智幸(中央水研),糟谷浩一(栃木水試)

 那珂川の両側回遊型アユについて,河口付近における冬の積算海水温,栃木県における遡上初認日・遡上観察群数・秋の平均体重の4要因の関係を解析した。その結果,冬の積算海水温が高い年ほど遡上初認日が早く,遡上観察群数も多いという有意な傾向が認められた。また,遡上初認日が早い年ほど遡上観察群数は多く,遡上観察群数が多い年ほど秋の平均体重は小さいことが明らかになった。以上の結果から,遡上初認日は冬の積算海水温から,遡上観察群数は冬の積算海水温と遡上初認日からそれぞれ予測できると考えられた。

日水誌,70(3), 288-296 (2004)

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曳航式深海用ビデオカメラを用いたズワイガニ類に対する調査用トロール網の採集効率の推定

渡部俊広(水工研),北川大二(東北水研)

 調査用トロール網の漁獲からズワイガニ類(ベニズワイガニとズワイガニ)の現存量を正しく推定するために,袖先間隔を基準とした調査用トロール網の採集効率を推定した。調査は,太平洋東北沖において2000年6月に,曳航式深海用ビデオカメラを用いてズワイガニ類の生息密度を観測後,トロール網の操業を行った。トロール網の採集効率は,生息密度に対するトロール網の掃過面積と漁獲個体数から求めた密度との関係から回帰分析によって求めた。調査用トロール網の採集効率を0.30,その95%信頼区間を0.23〜0.37と推定した。

日水誌,70(3), 297-303 (2004)

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伊勢湾,三河湾で標識放流したトラフグ人工種苗の分布・移動

阿知波英明(愛知水試)

 トラフグ人工種苗の分布・移動などを把握するため,1995〜1999年の7〜12月に計19群21,805個体(全長58.5〜207.0mm)を,伊勢湾,三河湾で標識放流した。その結果1,464個体(6.7%)が再捕され,再捕場所は伊勢湾,三河湾および両湾に隣接した遠州灘に限られ,放流時の全長と再捕率には正相関が認められた。再捕場所は,放流年の10月までは伊勢湾,三河湾,11〜12月は両湾と遠州灘,翌年1月以降は伊勢湾湾口部から遠州灘であった。また,伊勢湾湾口部での放流群は,放流3ヶ月以内の再捕が多く移動範囲も広いものの,再捕率は低くなった。

日水誌,70(3), 304-312 (2004)

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ブルーギルLepomis macrochirus の餌選択性―動物プランクトンについて

坂野博之,淀 太我(水研セ中央水研)

 ブルーギルの食性と動物プランクトンに対する餌選択性を明らかにするため,二つのため池において動物プランクトン種組成とブルーギルの胃内容物組成を明らかにした。両池のブルーギルの胃内容物には動物プランクトンが頻繁に認められた。二つのため池に共通して生息するオナガケンミジンコは一方の池で選択的に摂餌されていたものの,他方の池ではほとんど摂餌されておらずハリナガミジンコが選択的に摂餌されていた。

日水誌,70(3), 313-317 (2004)

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河川における冷水病菌をめぐる在来魚と放流アユとの関係

田畑和男(兵庫農水技セ)

 アユ放流前(2月)の河川においてオイカワに発生した冷水病の原因菌をめぐる在来魚種と放流アユとの同所的動的関係を冷水病菌のPCR-RFLP型を識別手段として4月から6月まで追跡した。オイカワの冷水病菌(BS型)は,アユ放流後の5月下旬までオイカワにのみ保菌されていた。一方,アユでは冷水病の発症,保菌が6月下旬まで確認されたが,BS型は検出されなかった。オイカワとアユの冷水病菌の間には宿主をめぐって一定の隔離があることと,室内実験からも冷水病菌の宿主に対する感受性に違いがあることが明らかになった。

日水誌,70(3), 318-323 (2004)

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寄生性カイアシ類 Haemobaphes diceraus およびClavella perfida がスケトウダラの成長・成熟におよぼす影響

片倉靖次,桜井泰憲(北大院水),
吉田英雄(道中央水試),西村 明(北水研),
小西健志(鯨類研),西山恒夫(道東海大)

 スケトウダラの成長と成熟に寄生性カイアシ類 Haemobaphes diceraus Clavella perfida がおよぼす影響を検討した。肥満度,肝臓重量指数および生殖腺重量指数は H. diceraus の寄生数増加に伴い減少したが, C. perfida の寄生数は関係しなかった。 H. diceraus の寄生魚には,産卵期に放卵後個体が多かったが,退行卵は確認されなかった。また,非寄生魚と年齢毎の体長に差がなかった。 H. diceraus の寄生は栄養状態を通して再生産に悪影響をおよぼすと考えられた。

日水誌,70(3), 324-332 (2004)

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沿岸海水中におけるアルカリフォスファターゼ活性およびフォスファターゼ加水分解性リンの分布と消長

山口晴生(愛媛大連合農),
西島敏隆,小田綾子,深見公雄,
足立真佐雄(高知大農)

 沿岸海水中のアルカリフォスファターゼ(AP)活性とフォスファターゼ加水分解性リン(APHP)の分布と消長を解析した。浦ノ内湾における海水中のAP活性は高水温期に高く,プランクトン態AP活性の寄与が大きいこと,本湾ならびに野見湾,浦戸湾および広島湾海水中には,0.02未満〜0.29μMのAPHPが溶存しており,海域による有意な濃度差は無いことがわかった。これらのことから,沿岸海水中のAPHPは植物プランクトンのリン源として有効に利用されることが示唆された。

日水誌,70(3), 333-342 (2004)

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飼育環境下におけるアサヒガニの卵サイズおよび水温と抱卵期間の関係

市川 卓(水研セ志布志),浜崎活幸(水研セ八重山),
浜田和久(水研セ志布志)

 飼育環境下でアサヒガニの卵サイズを測定し,産卵時,胚体出現時および発眼時からふ化までの抱卵期間と平均水温の関係を調べた。卵の長径,短径,体積は,産卵当日の約0.66mm, 0.60mm, 0.13mm3からふ化前日の約0.83mm, 0.79mm, 0.27mm3まで増大した。抱卵期間は水温の上昇にともない指数関数的に減少した。抱卵期間と水温の関係に三つの非線形モデル式を適用した結果,Belehradekの式と積算温度則の適合度が良く,両式の卵発育における理論的な低温側の臨界温度を表すパラメータは,それぞれ16〜18°Cと14〜15°C程度の値を示した。

日水誌,70(3), 343-347 (2004)

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水中での網地運動のモデリング

久保 敏(水研セ水工研)

 水中での網地運動の数値計算を試みた。結節を中心とする一定の範囲を基本的計算要素とした。要素内の質量は結節に集中するとし,そこでの力の釣り合いより運動方程式をたて結節の軌跡を求めた。抗力係数は実験式を用いた。網地形状が安定した時,結節に働く力の主なものは流体抵抗と張力であった。また重力とモーメント力の値は比較的小さいが重力に比較しモーメント力は無視できない水準となった。脚のバネ定数の値により流体中の網地形状が変化するため計算の精度を高めるためには抗力係数のみでなく適切なバネ定数を与える必要がある。

日水誌,70(3), 348-353 (2004)

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スケトウダラ塩ずり身のゲル形成能とその加熱温度依存性

北上誠一,村上由里子(すり身協会),
小関聡美(北大院水),阿部洋一(阿部十良商店),
安永廣作(水研セ中央水研),新井健一(すり身協会)

 スケトウダラ冷凍すり身のゲル形成能と加熱温度との関係を明らかにすることを目的とし,塩ずり肉を5〜75°Cの間の定温で加熱し,形成される予備加熱ゲルと二段加熱ゲルの破断強度( BS )が最大値に至るまで測定した。BS は,5〜35°Cでは温度に強く依存し,経時的に増加を,40°C以上では温度に関わりなく減少したが,70°C以上では当初の値に留まった。また5〜35°Cで予備加熱した二段加熱ゲルの BSとゲル剛性の間には良い正の相関があり,その関係直線は供試すり身に固有のゲル形成能力を示す指標となることが確かめられた。

日水誌,70(3), 354-364 (2004)

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野生化したニジマスと天然イワナの釣られやすさの比較(短報)

坪井潤一(北大院水),森田健太郎(東大海洋研)

 釣られやすさの種間差を明らかにすることは,天然個体群保全や放流指針策定において重要である。本研究では,野生化したニジマスと天然のイワナが生息する自然河川において餌釣りとフライフィッシングを行い,釣られやすさの種間差を比較した。その結果,餌釣りではイワナの方がニジマスよりも釣られやすかったが,逆にフライフィッシングではニジマスの方がイワナよりも釣られやすかった。放流直後のニジマスは非常に釣られやすいと考えられてきたが,自然水域に馴化した個体や再生産された個体では,釣られにくくなることが示唆された。

日水誌,70(3), 365-367 (2004)

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