日本水産学会誌掲載報文要旨

ガザミ幼生の n-3 高度不飽和酸要求

竹内俊郎,中本吉彦(東水大),
浜崎活幸,関谷幸生(日栽協),
渡邉 武(東水大)

ガザミ幼生の必須脂肪酸(EFA) である n-3 高度不飽和酸(n-3HUFA) 要求量を明らかにする目的で,種々の濃度の n-3HUFA で強化したワムシを用いてガザミを飼育した。各齢期への平均到達日数および生残率などを指標に検討した結果,淡水クロレラおよびコーンオイル単用区ではいずれも第 1 齢稚ガニ(C1) に達する個体は見られなかった。ワムシ培養槽への n-3HUFA 含有油脂(EPA28G 乳化オイル)の添加量増加にともない,メガロパおよび C1 に達する個体が増加し,ワムシ乾燥重量 100 g 当たりの n-3HUFA が 0.9-1.7 g の時に優れた飼育成績が得られた。また,リノール酸およびリノレン酸のガザミ幼生に対する EFA としての効果は低いと判断された。

日水誌, 65 (5), 797-803 (1999)

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ガザミ幼生におけるワムシとアルテミアの給餌時期の検討

竹内俊郎,佐藤敦一(東水大),関谷幸生,
清水智仁(日栽協),渡邉 武(東水大)

いずれの令期からガザミ幼生に対し,n-3 高度不飽和酸(n-3HUFA) を栄養強化したワムシおよびアルテミアを給餌するのが最適なのかを明らかにする目的で,脱皮・変態率の推移や令期所要日数さらに使用した餌料中の脂肪酸含量等から検討した。その結果,第 3 齢ゾエアに n-3HUFA で栄養強化したワムシまたはアルテミア,特にアルテミアをガザミ幼生に給餌することにより,メガロパへの脱皮・変態率が大幅に改善された。餌料中の n-3HUFA の濃度は同じ強化剤を用いた場合,ワムシで 1.6%,アルテミアで 2.7% とアルテミアへの取り込み割合が高かった。以上のことより,n-3HUFA 強化アルテミアを第 3 齢ゾエアから与えることが望ましいと判断された。

日水誌, 65 (5), 804-809 (1999)

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下水処理水中のアナアオサ成長促進物質について

朝日向豊邦,小野寺知幸,斉藤 肇(気仙沼終末処理場),菅野俊克(気仙沼市)

下水処理水中のアナアオサ成長促進物質について検討した。1.海水に処理水を添加した培養実験を行い海水中の処理水濃度を 20% 以下にすると,処理水がアナアオサに対して成長促進作用を示す。2.処理水の有機物組成を Sephadex G-15 を用いて調べ,フミン質系統の物質の存在を確認した。3.このフミン質系統の物質の濃縮物を得るために処理水を減圧濃縮し,分子画量 500 以上の限外濾紙による濾過を行った。海水にこの濃縮物を添加した培養実験を行い,この物質がアナアオサ成長促進物質の 1 つであることが確認できた。

日水誌, 65 (5), 810-817(1999)

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泡沫分離・硝化システムによるヒラメの閉鎖循環式高密度飼育

丸山俊朗,鈴木祥広,佐藤大輔(宮大工),
神田 猛,道下 保(宮大農)

閉鎖循環式の泡沫分離・硝化システムと従来の流水式システムでヒラメを飼育し,閉鎖循環式養殖の可能性を検討した。本閉鎖循環式システムは,飼育水槽,空気自吸式エアーレーターを設置した気液接触・泡沫分離槽,硝化・固液分離槽,および pH ・ 水温調整槽からなる。ヒラメ幼魚 200 尾を収容(初期収容率 2.8%) し,90 日間の飼育実験(実験終了時収容率 5.0%) を行った。本閉鎖循環式システムと流水式システムを比較すると,生残率はそれぞれ 93.5% と 98% であり,また,飼料効率は,それぞれ 117% と 110% であった。本閉鎖循環式システムによって,飼育水をほぼ完全に排水することなしに,高密度飼育することができた。

日水誌, 65 (5), 818-825(1999)

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田辺湾における Alexandrium catenella の高密度発生と水質,気象要因との関係

竹内照文(和歌山県水試),
吉田陽一(水産環境微生物研)

田辺湾におけるアレキサンドリウム Alexandrium catenella の異常発生が比較的多くみられた 1984 および 1987 年を中心に,同種の高密度発生と水質,気象要因等との関係について調べた。同種は 4 月の中旬頃に豪雨,または非常に強い風のあった約 1 ヵ月後の 5 月中旬頃最も高密度に発生し,また,高密度発生時の水質諸要因に関しては,DIN (溶存無機態窒素),DIP (溶存無機態リン),および DIN×DIP が非常に低く,DIN : DIP 比が高かった。これらの A. catenella の高密度発生時における気象諸要因や水質諸要因の特徴は,同種のシストの発芽や栄養塩の利用性等の生理学的特性と密接な関連があることが示唆された。

日水誌, 65 (5), 826-832(1999)

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成長に伴うマダイの聴覚閾値の変化

岩下亜記,坂本睦海,小島隆人(日大生物資源),
渡辺幸彦(海生研),添田秀男(日大生物資源)

心拍間隔を指標にした魚類の聴覚閾値の測定は近年日本で多く行われているが,その多くは成魚を対象としている。本研究は 0 歳から 2 歳魚までの各年齢のマダイを用いて,音と電気刺激を組み合わせた条件付けを行った後,放音前と放音後の心拍間隔を比較して,聴覚閾値を測定した。0, 1 歳魚の最高感度周波数は 300 Hz でその閾値音圧はそれぞれ 92.4 dB, 83.0 dB (0 dB=1 μPa) であった。また 2 歳魚の最高感度周波数は 200 Hz で Ishioka et al (1988) の 3 歳魚と同様であり,その時の閾値音圧は 71.3 dB であった。このことからマダイは成長に伴い最高感度周波数が低周波数へ移動するとともに 100 Hz および 200 Hz の感知能力が向上することがわかった。

日水誌, 65 (5), 833-838(1999)

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クランクベイトのタイドアイの位置による潜行深度の変化

臺田 望,稲田博史,三木智宏,兼廣春之(東水大)

クランクベイトルアーのタイドアイの位置と潜行深度との関係を把握するため,リップ形状,タイドアイの位置を可変設定できるルアーを試作し実験を行った。回流水槽では,ルアーの迎角と潜行深度を測定し,フィールド実験では 20 m 区間を一定の巻取り速度 40, 60, 80 cm/s で潜行するルアーの深度変化を測定した。この結果,平面図上のルアーの先端からタイドアイまでの距離(d) とルアーの全長(L0) の比(d/L0) が 0.25 付近で潜行深度が最大となり,この場合のルアーが迎角が 20°〜40°となる機構が明らかになった。

日水誌, 65 (5), 839-846(1999)

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有毒渦鞭毛藻 Alexandrium catenella の増殖に及ぼす窒素・リン栄養塩の影響

松田篤志,西島敏隆,深見公雄(高知大農)

A. catenella の増殖に及ぼす窒素・リン源の影響を調べた。増殖の KS は,NO3-N で 7.7 μM, NH4-N で 3.3 μM, PO4-P で 0.72 μM と,他の赤潮植物プランクトンと比較して高い値であった。μmax は 0.47〜0.55 day−1 であった。本藻は,有機態窒素(尿素およびアミノ酸態窒素のほとんど)を窒素源として増殖に利用できなかった。一方,リン源については有機態リンをはじめ,種々の形態のリンを利用可能であった。以上から,本藻は有機態リン濃度の高い富栄養型沿岸域に適応しており,低無機態窒素・リン濃度下では代表的な赤潮プランクトンよりも優位に増殖する可能性は低いと推察された。

日水誌, 65 (5), 847-855(1999)

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ツキヒガイ閉殻筋への塩化マグネシウム注射による開殻

上水樽豊己(鹿児島育英館高校),安樂和彦(鹿大水)

ツキヒガイを短時間のうちに開殻させ軟体部の手術が可能な方法として塩化マグネシウム溶液を閉殻筋に注射する方法を採用し,その確立を目的とした。注射液は自然海水および 0.2 M, 0.4 M, 0.6 M の塩化マグネシウム溶液,注射量は 1 ml, 3 ml, 5 ml とした。いずれの条件下でも,注射直後腹縁中央が開殻度にして 9-12 度開いた。0.4 M 溶液 5 ml, 0.6 M 溶液 3 ml, 0.6 M 溶液 5 ml を注射した時は,接触刺激によっても閉殻筋の収縮は起こらず,軟体部の手術が可能であった。この方法は,感覚閉塞等の種々の実験技術に応用できる。

日水誌, 65 (5), 856-859(1999)

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複葉型オッターボードの流体特性に及ぼす湾曲板の縦横比および反り比の影響

福田賢吾,胡 夫祥,東海 正,
松田 皎(東水大)

複葉型オッターボードの前後翼に用いる湾曲板の縦横比および反り比が流体特性に及ぼす影響を調べるため,回流水槽で模型実験を行った。実験には反り比 15%,縦横比 2.5, 3.0, 3.5, 4.0 の湾曲板と縦横比 3.0,反り比 10%, 15%, 20% の湾曲板の計 7 種類を用いて,流速および迎角ごとの各流体力を計測し,揚抗力係数を求めた。前後翼に同じ縦横比の湾曲板を用いた場合,実験範囲内の縦横比による最大揚力係数の差は小さく,後翼に反り比の大きな湾曲板を配する場合ではその逆に比べて最大揚力係数が大きい。前後翼に縦横比の異なる湾曲板を用いた場合では,後翼に縦横比の大きな湾曲板を用いる組み合わせで最大揚力係数は大きい。ギャップ・コード比 0.6 以下では食違い角が大きいほど最大揚力係数は大きい傾向を示した。

日水誌, 65 (5), 860-865(1999)

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ブリ実用飼料の利用性に及ぼす飼料形態の影響

示野貞夫,松本将哉,細川秀毅,
益本俊郎(高知大農),
松本敏浩(ダイセル化学工業)

成長や消化率に及ぼす飼料形態の影響を知るために,摂餌促進物質を添加した同一組成の MP, EP および SP を,ドライベースで等率になるようにブリ稚魚に給与し,50 日間水槽飼育した。SP 区の摂餌はやや不活発であったが,全区の増重量は近似しており,飼料効率,タンパク質効率およびエネルギー効率の区間差も小さかった。腸重量や消化率に若干の区間差はみられたが,全区の血液性状や血清成分は類似していた。以上の結果から,飼料形態によりブリの摂餌活性や消化過程は多少異なるが,本試験条件下では 3 飼料の利用性は類似すると判断された。

日水誌, 65 (5), 866-871(1999)

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スケトウダラ肉糊の坐りに及ぼすでん粉添加の影響

山下民治,谷本昌太(広島食工技セ),関 伸夫(北大水)

スケトウダラ冷凍すり身にでん粉を添加した肉糊を,10° で 0〜2 日間坐りを行い,直ちに 90°, 30 分間加熱を行った。でん粉添加量が多くなるほど,坐りの有無にかかわらずゲルの破断強度は著しく増大した。でん粉添加は,坐り中の魚肉タンパク質のミオシン重鎖の多量体形成を抑制しなかったが,坐り加熱ゲルの破断強度の増大する割合を抑制し,見かけ上坐りの効果を低下させた。また,この低下は,坐りと多量のでん粉添加によるゲルの破断強度の増強効果が強いほど顕著におきた。

日水誌, 65 (5), 872-877(1999)

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マサバとマサバへしこの一般成分ならびにエキス成分の比較

伊藤光史,赤羽義章(福井県大生物資源)

マサバとへしこの成分比較から,へしこ製造過程での食塩及び糠の炭水化物の侵入により,マサバは大きく脱水し,その際に脂質は一部が流出するものの多くはへしこ中に濃縮されるが,タンパク質は流出などによる損失が大きいことが推察された。しかし,いずれのへしこでも,タンパク質の低分子化による著量の遊離アミノ酸とペプチドの蓄積が見られた。へしこにはヌクレオチドは存在しなかったが,乳酸,酢酸,コハク酸,リンゴ酸は多かった。へしこの強い呈味には,多量の遊離アミノ酸のほかペプチドや有機酸などの関与も大きいと考えられた。

日水誌, 65 (5), 878-885(1999)

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コイ筋原繊維の熱変性と溶解に及ぼすグルコン酸ナトリウムの影響

竹下瑞恵,大泉 徹,赤羽義章(福井県大生物資源),
竹縄誠之(藤沢薬品工業)

コイ筋原繊維(Mf) の熱変性と溶解に及ぼすグルコン酸ナトリウム(Na-G) の影響をソルビトール(S) および食塩のそれらと比較検討した。その結果,Na-G は S よりも強力に Mf の熱変性を抑制するとともに食塩と同様に Mf を溶解することが示された。但し,Mf の可溶化に必要な Na-G の濃度は食塩のそれよりもやや高かった。両化合物の溶液中における Na+ 濃度を測定した結果から,これらの Mf 溶解作用の差異は,主に両化合物の電離度の違いによることが示唆された。

日水誌, 65 (5), 886-891(1999)

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代謝中間体濃度によるコイ筋肉 phosphofructokinase (PFK) 活性の調節

示野貞夫,杉田 毅,岩永俊介(高知大農)

コイ筋肉における多くの代謝中間体濃度は 10−3〜10−4 M であった。生理的条件の基質濃度や pH 域では,筋 PFK はアロステリック酵素として機能しており,in vitro の本酵素活性は ATP により阻害されていた。ATP による阻害は生理的濃度域の ADP や AMP の共存により軽減され,クエン酸の共存により強化された。以上の結果から,筋肉の in vivo 解糖速度は,酵素誘導がなくても,PFK 活性の変化を介して生理的濃度域における解糖中間体やアデニンヌクレオチドの濃度変化により速やかに調節されている可能性が高いと推察された。

日水誌, 65 (5), 892-895(1999)

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インスリンおよびグルコースの投与に対するコイ肝膵臓の酵素活性ならびに代謝中間体濃度の応答

杉田 毅,示野貞夫,細川秀毅,
益本俊郎(高知大農)

インスリンを投与したコイでは,血清グルコースや遊離アミノ酸の含量は速やかかつ顕著に低下した。また,phosphofructokinase (PFK) と G6PDH の活性は増大し,FBPase と G6Pase の活性は減少した。さらに,F6P, AMP, ADP およびクエン酸の濃度は PFK 活性を賦活させる方向に変化した。グルコース投与数時間後の血糖低下時にも,各成分に同様な変化が認められたことから,インスリン負荷時には PFK タンパク質の立体構造および代謝中間体濃度の変化を通じて速やかに解糖が促進したと推察された。

日水誌, 65 (5), 896-900(1999)

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ヒラメの網膜 S 電位のスペクトル応答特性(短報)

古瀬正浩,五味正揮,沼田智幸,
袋谷賢吉(富山大工)

ヒラメの明順応網膜の水平細胞から S 電位を記録し,1 相性と 2 相性の 2 種類のスペクトル応答型が得られた。1 相性は波長 520 nm 付近に最大感度を持ち,さらに種々の有色背景光のもとでも,この最大感度波長は変化しなかった。2 相性 S 電位は,それぞれ波長 470 nm と 570 nm 付近に過分極相と脱分極相の最大感度を示した。紫背景光のもとでこの脱分極相のピーク波長は 550 nm 付近に移行し,実際にはさらに短波長側にあることが示唆された。

日水誌, 65 (5), 901-902(1999)

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アユの網膜 S 電位のスペクトル応答特性(短報)

古瀬正浩,三日市政司,袋谷賢吉(富山大工)

アユの明順応網膜における S 電位のスペクトル応答特性を調べ,4 つの型のスペクトル応答が存在することを明らかにした。また,各スペクトル応答型の過分極相が,それぞれ赤錐体,緑錐体,青錐体,紫外錐体のスペクトル応答特性を反映しているものと考察した。

日水誌, 65 (5), 903-904(1999)

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