日本水産学会誌掲載報文要旨

ポケット網実験から推定した北洋トロール漁業における魚類の網内集約過程

松下吉樹,井上喜洋(水工研),
V. A. Tatarnikov (TINRO)

北転船トロール網内におけるスケトウダラとキタノホッケの集約過程を漁具各部に装着したポケット網の漁獲尾数の変化から調べた。網地を切除しないでポケット網を装着した場合,ポケット網の漁獲は非常に少なく,両種ともに現用網の網目を通過することは少ないと考えた。網地を切除してポケット網を装着した場合,ポケット網の漁獲尾数は両種ともに漁具の断面積が小さくなるにつれて多くなった。トロール網地に遭遇した魚類は,断面積の減少に伴って網地に沿ってコッドエンド方向に移動し,網地付近の魚群密度は濃密になってゆくという網内集約過程が推測できた。

日水誌, 65 (1), 3-10 (1999)

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小型底曳網漁業における漁獲物分離装置の開発

松下吉樹(水工研),野島幸治(千葉水試),
井上喜洋(水工研)

千葉県銚子地区小型底曳網漁業において,2 つの袋網を上下に重ねた 2 階式袋網と下部袋網前方に配した仕切網による構造の漁獲物分離装置の開発試験を行った。仕切網には一脚長 43.5 mm および 55.0 mm 角目網とポリエチレン製枠に取り付けた 24.6×49.8 mm と 24.6×101.8 mm 網目の矩形網地の 4 種類を用いた。試験では混獲生物を含む魚類を上部袋網へ,小型エビ類を下部袋網へそれぞれ分離することを目標とした。Newton の分級効率は,24.6×101.8 mm の矩形網地を用いた分離装置で最も高く,0.31 を示した。しかし,小型エビ類の 35% が上部袋網へと排除され実用性には乏しかった。これらの分離装置は漁獲物へのサイズ選択性をもち,体長の大きな個体ほど上部袋網に分離される傾向が認められた。

日水誌, 65 (1), 11-18 (1999)

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沖縄島におけるシモフリアイゴの着底

金城清昭(沖縄水試),本永文彦(沖縄県庁),
木村基文(沖縄県庁)

沖縄島において定置網の日別漁獲量調査,集魚灯採集,海草藻場での曳網採集を行い,シモフリアイゴの着底サイズと産卵後着底までの日数の変化を調べた。着底は,4〜9 月の新月前後の数日間に行われ,着底サイズには個体差があり,その幅は全長 19.5〜25.2 mm と推測された。産卵後着底までの推定日数は 21〜28 日で,後期の産卵群ほど短い傾向を示した。産卵後着底までの日数とその間の平均水温の間には有意な負の相関関係(p<0.05) がみられ,日数の長短には水温が影響することが明らかになった。

日水誌, 65 (1), 19-25(1999)

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スケトウダラ稚魚の時刻と照度による行動

藤森康澄,塩出大輔(北大水),
馬場紀彦(油壷マリンパーク),
清水 晋,三浦汀介(北大水)

小型水槽においてスケトウダラ稚魚の活動性への時刻と照度の影響を調べるため,明暗(LD),恒常暗(DD),恒常明(LL) の 3 種類の条件下での行動と数種の照度下(0.1, 1.0, 100 lx) における対網行動を記録した。スケトウダラ稚魚の活動量は,LD 条件の下で消灯する 18 : 00 以後に減少し,点灯する 6 : 00 から増加した。しかし,同様のリズムは他の条件では認められず,概日リズムは確認されなかった。対網行動から推定された網の通過率の照度にともなう減少はゆるやかであった。活動リズムに着目し,曳網類による昼夜での採取率も推定した。

日水誌, 65 (1), 26-32(1999)

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縮結の異なる有嚢まき網の漁具特性に関する模型実験

辛 鍾根(鹿大連合農),
今井健彦,不破 茂,石崎宗周(鹿大水)

船尾式まき網の基本設計を最終目的とし,縮結の異なる 5 種類(E=0.5, 0.6, 0.7, 0.8, 0.9) の有嚢まき網の単純模型網を用い,静水時における網の沈降動態および流れを与えた時の網の流体抵抗と網裾開口部の面積変化について調べた。沈子綱の沈降速度は縮結と測定点によって異なった特性を示した。沈降終了時の網裾の到達水深は E=0.9 が最も深い値を示したが,設計深さにほぼ等しい深さが得られたのは E=0.7 と E=0.8 だった。網裾の開口部がほぼ閉じるまでの網の移動距離は E=0.8 以外には大きな差がなかった。これらの結果を総合すると,船尾式まき網の縮結として E=0.7 が最も適していると判断される。

日水誌, 65 (1), 33-41(1999)

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ヤマノカミ仔稚魚の分布域および生残率と成長に及ぼす塩分の影響

鬼倉徳雄(九大農),竹下直彦(水大校),
松井誠一(九大農),木村清朗(福岡市)

1994 年 2〜5 月に有明海北部の 12 地点と同海域に注ぐ佐賀県鹿島川の 6 地点で,ヤマノカミの仔稚魚の出現域を調べた。有明海では沿岸域と河口域近くの 7 地点に全長 7〜16 mm の浮遊期仔魚が出現し,その時の塩分は 16〜25 ppt であった。鹿島川では河口から 0〜3 km の感潮域 3 地点に全長 13〜20 mm の浮遊期の仔稚魚が出現し,塩分は 3〜25 ppt であった。着底後の個体は鹿島川の河口を除く上流の 5 地点で多く採集され,その塩分は干潮時には 0 を示した。ヤマノカミ仔稚魚を塩分 0〜34 ppt で飼育したところ,浮遊仔魚の淡水区での成長は高塩分区に比べ劣り,約 15 日間で死滅した。一方,着底稚魚では成長も生残率も低塩分の方が優れていた。

日水誌, 65 (1), 42-47(1999)

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野外におけるマダイの酸素消費量の水温を指標とした見積もり

光永 靖,坂本 亘(京大農),
荒井修亮(京大情報),笠井亮秀(京大農)

水温がマダイの代謝と遊泳行動に及ぼす影響を明らかにするために 2 つの実験を行った。室内実験の結果,平常の酸素消費量(OC, mg min.−1 kg−1) は水温(T, ℃) と高い相関を示し,OC=1.47+0.01×1.22T となった。野外テレメトリー実験の結果,供試魚が経験した水温は 18.5〜23.0℃ で,上記の式から酸素消費量を見積もると,1.91〜2.55 mg min.−1 kg−1 となった。28 日間の調査期間中供試魚はほとんど水平移動しなかったことから,この程度の水温変化は遊泳行動に影響を及ぼさないと考えられる。

日水誌, 65 (1), 48-54(1999)

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紅藻フイリタサの生活史におよぼす温度と光周期の影響

能登谷正浩,菅原守雄(東水大)

北海道南茅部郡見日で採集したフイリタサ(紅藻アマノリ属)の生活史と,生長や成熟におよぼす温度(5-25℃) や光周期(10L : 14D, 14L : 10D) の影響を室内培養下で観察した。糸状体は 10℃ 下で最も速く生長し,殻胞子嚢は 5℃ と 10℃ の短日(10L : 14D) 下で形成された。殻胞子は 5℃ と 10℃ でのみ葉状体になり,成熟して精子および造果器を形成し,その後に接合胞子の形成,放出が見られた。15℃ 下では発芽して小さな塊状体となったが,生殖器官は形成されなかった。葉状体は 20℃ 以上の高温下では生育できなかった。葉状体はいずれの条件下でも無性胞子の放出は見られなかった。

日水誌, 65 (1), 55-59(1999)

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定置網各部の魚群量割合

秋山清二(東水大)

定置網の漁獲効率に関する基礎的な知見を得るため,定置網各部の魚群量の割合を操業実験により求めた。千葉県館山湾の小型落網における運動場と箱網の魚群量の割合は 20 : 80 であった。岩手県大槌湾の小型落網における箱網とキンコのサケの魚群量の割合は 31 : 69 であった。石川県金沢冲の小型二段落網における第 1 箱網と第 2 箱網のマイワシの魚群量の割合は 10 : 90 であった。神奈川県平塚冲の大型二段落網における第 1 箱網と第 2 箱網の魚群量の割合は 27 : 73 であった。定置網各部の容積と魚群量から求めた魚群密度は,昇網や漏斗網などのカエシの前部で低く,後部で高い結果となった。

日水誌, 65 (1), 60-65(1999)

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音響散乱層の体積後方散乱強度の周波数特性と構成種のターゲットストレングスに関する考察

飯田浩二,向井 徹,森 英樹(北大水)

北海道北部日本海において,オキアミとスケトウダラ稚仔魚が混在する音響散乱層(SSL) の体積後方散乱強度(SV) を 38, 50, 120 kHz の 3 周波数で測定した。そして,ビームトロールにより SSL の構成種を確認し,その組成の違いと SV を比較した。この結果,スケトウダラ稚仔魚が多い地点では SV が大きく,かつ周波数間の変化はあまりなかった。しかし,オキアミが多い地点では高周波ほど SV が大きくなる傾向が認められた。これらの違いから重回帰分析による種別・周波数別の TS 推定を試みた。その結果,理論モデルとの差は認められるものの,重回帰モデルを用いた TS 推定の可能性が示された。

日水誌, 65 (1), 66-72(1999)

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標識放流に基づくオホーツク海南部におけるキチジの回遊

木下貴裕(北水研),國廣靖志(道中央水試),
多部田 修(長崎大学)

オホーツク海南部のキチジの回遊と系群構造を推定するために,北見大和堆東斜面で 3,025 尾の標識魚を放流し,4 年間で 481 尾(再捕率約 16%) の再捕を得た。再捕位置は時間とともに放流域から知床半島周辺に移動した。放流域の北方での再捕は極少数であった。太平洋側での再捕は 1 尾であった。再捕結果と既往の知見から,北見大和堆から知床半島にかけて分布するキチジは,同一系群に属し,また成長とともに北見大和堆東斜面から知床半島周辺へ回遊することが示唆された。

日水誌, 65 (1), 73-77(1999)

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海底反射を利用した計量魚群探知機の総合的検証

青山千春,濱田悦之,古澤昌彦(東水大)

計量魚群探知機の送受波器が船底や曳航体に装備される前に精度良く較正されていても,調査時には標準球を用いた較正が必要である。しかし,この方法は,標準球を送受波器の音軸上に配置するなど手間と時間がかかるうえ,等価ビーム幅の較正を行うことはむずかしい。そこで,本研究では,従来の方法の補完的手段として,簡便で実際的な計量魚群探知機の総合的検証方法を提案する。この方法は,海底面ができるだけ平坦で均質な海域で,海底エコーの平均処理をエコー積分により行う。得られた積分結果より,等価ビーム幅を含めた送受信系及び処理系の総合的検証を行うものである。海底の表面戻り散乱強度が既知な場合は絶対的検証が可能で,未知な場合は相対的検証が可能となる。このためにまず,海底面についてのエコー積分結果と表面戻り散乱強度の関係を理論と実測により明らかにした。次に海底面からのエコーを利用して計量魚群探知機の総合的検証を行う方法を示した。さらに,この方法を実際に適用し,有効性を確かめた。

日水誌, 65 (1), 78-85(1999)

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フェニルヒドラジン投与によるブリの高ビリルビン血症

伊東尚史(鹿大連農研),
村田 寿,境  正,山内 清,
津田友秀(宮崎大農),山口登喜夫(東医歯大),
毛良明夫,山田卓郎(宮崎水試),
宇川正治(丸紅飼料)

ブリの黄疸が生体内脂質過酸化により引き起こされるかどうかを知るため,フェニルヒドラジン(PH) をブリに投与した。その結果,ヘモグロビン量の低下,血漿 2-チオバルビツール酸反応物質値とビリルビン量の増加および α-トコフェロールとアスコルビン酸量の減少並びに肝臓ヘムオキシゲナーゼ m-RNA の増加が,PH 投与により認められた。すなわち,PH 投与によるブリの高ビリルビン血症は,強い酸化的ストレスによるヘムオキシゲナーゼの誘導がビリルビン合成を促進したために発症したと考えられる。

日水誌, 65 (1), 86-91(1999)

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かつお節タンパク質のプロテアーゼ消化物からの抗酸化ペプチドの分離と同定

末綱邦男(水大校)

かつお節タンパク質を 10 種プロテアーゼ分解後,抗酸化活性を調べた結果,最も高い活性が認められたモルシン分解物を透析後,Dowex 50 W (H+), Sephadex G-25 および SP Sephadex C-25 (H+) カラムクロマトグラフィーで分画して抗酸化活性の強いペプチド画分を得た。さらに,本画分を逆相液体クロマトグラフィーで分画したところ,11 種類の抗酸化ペプチド Val-Lys-Leu, Val-Val-Lys-Leu, Val-Lys-Val, Pro-Lys-Ala-Val, Ile-Lys-Leu, Val-Pro-Ser-Gly-Lys, Glu-Ala-Lys, Phe-Val-Ala-Gly-Lys, Lys-Ala-Ile, Lys-Val-Ile および Lys-Asp が得られた。これら抗酸化ペプチドのうちで,C 末端ならびに N 末端に分岐鎖アミノ酸を持つものに高い抗酸化活性が見られた。

日水誌, 65 (1), 92-96(1999)

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淡水魚筋肉の氷蔵中における ATP とその関連物質の変化

谷本昌太(広島食工技),
平田 孝,坂口守彦(京大農)

淡水魚(8 種)の筋肉を氷蔵して,ATP およびその関連物質含量の変化を調べ,K 値の変化速度を海産魚(5 種)のそれと比較した。ATP およびその関連物質は淡水魚,海産魚ともに貯蔵初期に ATP の急速な減少に伴い,IMP が蓄積し,その後 IMP の減少に伴ってイノシン(HxR),ヒポキサンチン(Hx) が増加した。しかし,IMP の分解速度および HxR, Hx の生成速度は魚種により相違し,したがって,K 値の変化速度も魚種により大きく異なっていた。これらの結果は淡水魚の K 値変化速度は種による違いが著しく,海産魚との間に目立った違いはないこと示唆している。

日水誌, 65 (1), 97-102(1999)

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ホタテガイ貝柱の硬化に与える洗浄の影響

木村 稔,成田正直(網走水試),
野俣 洋(道中央水試),
潮 秀樹,山中英明(東水大)

洗浄処理の違いによる 0 ℃ 貯蔵中のホタテガイ貝柱の硬化発生率,破断強度,筋繊維の収縮率および ATP 関連化合物の変化を調べた。硬化発生率は蒸留水洗浄では 2 日目,無洗浄および人工海水洗浄では 5 日目に 100% となった。貝柱は収縮率が約 25% を超えると硬化の発生が観察された。蒸留水洗浄は無洗浄や人工海水洗浄に比べて貯蔵中に破断強度,ATP および pH は急激に低下し,K 値は著しく上昇した。以上の結果,ホタテガイ貝柱の真水による洗浄は短時間であっても不適切であり,海水洗浄が望ましいことが明らかとなった。

日水誌, 65 (1), 103-107(1999)

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ピペロニルブトキシド処理ブリにおけるオキソリン酸血中濃度(短報)

瀬川 勲,池田和夫(養殖研)

ピペロニルブトキシド処理がブリのオキソリン酸血中濃度に及ぼす影響を検討した。ブリ肝ミクロゾームにおけるオキソリン酸代謝活性は,ピペロニルブトキシド添加により対照の 5 %に低下した。さらに,ピペロニルブトキシド処理ブリの血中オキソリン酸の生物学的半減期は,対照群の 2.7 倍に延長された。よって,ブリではピペロニルブトキシド処理によりオキソリン酸血中濃度をより長く維持できることが示された。

日水誌, 65 (1), 108-109 (1999)

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ヒトデ類幽門盲のうのホスホリパーゼ A 活性(短報)

岸村栄毅,林 賢治(北大水)

イトマキヒトデ,ニチリンヒトデ,ニッポンヒトデ,およびヒトデの幽門盲のうをクロロホルム-メタノール(2 : 1, v/v) またはアセトンで脱脂して得られた粉末からそれぞれ粗酵素[I]と[II]を調製し,それらのホスホリパーゼ(PLase) A 活性を測定した。その結果,イトマキヒトデの粗酵素[I]および[II]の PLase A 活性値および比活性値は,他の 3 種のそれらに比べて著しく高かった。また,イトマキヒトデとニチリンヒトデの粗酵素[I]の PLase A 活性値および比活性値は,粗酵素[II]のそれらより高かった。

日水誌, 65 (1), 110-111

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