Fisheries Science 掲載報文要旨

比較曳網試験データを用いた表層トロール網の相対漁獲効率推定

中山新一朗,巣山 哲,冨士泰期,橋本 緑

 漁具効率は資源評価において重要なパラメータの1つであるが,実験的にその値を推定するには時間と手間がかかり,しばしば困難である。特に,前回の資源評価に使用された漁具が何らかの理由で変更された場合,データの継続性を担保するために必要な作業は膨大となる,この問題に対処するために,比較曳網試験から得られたデータセットを用い,新しい漁具の,既存の漁具に対する相対漁獲効率を推定することができる状態空間モデルを構築した。この方法は,絶対的漁獲効率を推定するために使用される直接的な実験よりもはるかに簡単に用いることができる。このモデルを使用し,日本のサンマ資源量調査で新たに使用された表層トロール網(NST−660)の,既存のトロール網(NST−99)に対する相対漁獲効率を推定した。NST−660のNST−99に対する相対漁獲効率推定値の2.5−50−97.5パーセンタイルはそれぞれ0.873, 1.59, 2.91であった。モデルの仮定の妥当性は,モデル診断によって検証された。

89(6), 725−730 (2023)
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ニュージーランド産スカンピMetanephrops challengeriの生息環境および深海トロール効率調査への水中カメラの適用

Alaric McCarthy, Andrew Jeffs, Shaun Ogilvie,Dave Taylor, John Radford, Ian Tuck
 深海性ロブスターの商業トロール網に装着したカメラによるビデオ録画の,生息環境と漁獲効率推定への有効性を評価した。録画から無作為に選択されたフレームで,ロブスター,巣穴,地形的特徴,表層性動物および魚類を計数した。豊度の指標である巣穴数と底生生物によるマウンド数には正の関係が,平滑な地形との間には負の関係が示された。スカンピのトロール効率は30%と低かった。この結果から,録画が生息域と漁獲効率の理解を深めるのに有効であることが確認された。
(文責 松石 隆)

89(6), 731−745 (2023)
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東シナ海におけるケンサキイカ発生群間の平衡石微量元素の変異

Nan Li, Peiwu Han, Xinjun Chen, Zhou Fang
 レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析(LA−ICP−MS)により,発生時期の異なるケンサキイカの平衡石微量元素を測定した。平衡石の核から縁辺までの値から発育段階に対応した5つのクラスターに区分された。Sr(ストロンチウム)/Ca(カルシウム)比は発育段階間と発生群間で,Ba(バリウム)/Ca比は発育段階間で有意に異なった。以上から,平衡石におけるSr/Ca比とBa/Ca比はケンサキイカの回遊経路を推測するための指標として有効である可能性が示された。
(文責 冨山 毅)

89(6), 747−759 (2023)
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余呉湖に流入する小河川でのワカサギの産卵場の環境特性

角田恭平,成田一平,石崎大介,甲斐嘉晃,亀甲武志
 内水面遊魚の重要種であるワカサギの自然再生産による増殖や産卵場の造成に関する基礎的知見を得るため,余呉湖流入河川においてワカサギの産着卵の有無と水深,流速,河床材料の関係を調査した。産着卵は流速が速く,砂礫がある場所で確認でき,河口付近の泥が堆積する場所では確認できなかった。Jacobsの選択性指数によりワカサギは河床材料として砂(<2 mm),小礫(<16 mm),中礫(<64 mm)を,水深は5−30 cm,流速は10−50 cm/sを選択していることが示された。本研究の結果は,本種の自然再生産による増殖や産卵場の造成を検討するうえで重要な知見となる。

89(6), 761−768 (2023)
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ホワイトスポットシンドロームウイルスの進化ゲノム解析

川戸 智,大嶺理紗子,照屋清之介,久保弘文,
安本信哉,近藤昌和,高橋幸則,野崎玲子,
近藤秀裕,廣野育生
 クルマエビ類の養殖における最も深刻な病原体であるホワイトスポットシンドロームウイルス (WSSV) の進化を解析するため,日本産WSSV全ゲノム配列13株と公共データベースから取得したメタゲノム配列30本を用いて系統解析を行った。WSSVは2つの系統(phylotype IおよびII)に分かれ,1970−80年代に分岐したと推定された。Phylotype Iが世界的流行を引き起こし,phylotype IIはアジア土着でオーストラリアに侵入した。両系統間のゲノム組み換えにより2つのキメラ株が生じ,WSSVの遺伝的多様性創出に寄与している。本研究はWSSVの進化と起源解明に重要な知見をもたらす。

89(6), 769−783 (2023)
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兵庫県神戸市地先における養殖ノリの食害対策に向けた音響テレメトリーによるクロダイの行動研究

高倉良太,谷田圭亮,稲? 彩,光永 靖
 ノリ養殖業ではクロダイAcanthopagrus schlegeliiによる食害が深刻化している。本研究では,食害対策に資する本種の行動特性を把握するため,音響テレメトリーを用いてノリ養殖場周辺でのクロダイの行動をモニタリングした。供試魚23尾のうち8尾が養殖ノリを摂食していたと考えられ,日中にノリを摂食し,夜間は海底や構造物周辺に滞在する周期性が認められた。また,水温が13°Cを下回る頃から摂餌行動が減少することが示された。行動特性を利用した定置網や刺網等で,養殖場周辺に生息する個体を一定数水揚げすることで,食害を軽減できる可能性が示唆された。

89(6), 785−799 (2023)
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タツノオトシゴHippocampus barbouriの摂餌嗜好性に対する背景水槽色と餌料色の相乗効果

Syahira Ismail, Annie Christianus, Cheng-Ann Chen, Gunzo Kawamura, Leong-Seng Lim, Fatihah Abd Halid Nur
 餌料設計で有効な捕食者の色嗜好は背景色と光強度で変わる。本研究では,背景色を変えたタツノオトシゴH. barbouri未成魚の一次反応(接近と摂取)で色の餌料嗜好性効果を調べた。赤, 青, 緑水槽で飼育した魚 (SL 7.56±0.35 cm, WW 0.58±0.10 g)で,青,緑,赤,黄,白着色,無着色のエビAcetes sibogae (TL 1.00±0.05 cm)を餌料とし,3背景色と2色のエビでの反応頻度をカイ二乗検定とサーストン対比較に供した。頻度は全背景色で無着色で有意に高く,黄と緑のエビは各々緑と赤の背景色で有意に好まれた。本研究は色嗜好性を明らかにしたが,さらに色視認性を調べる必要がある。
(文責 澤田好史)

89(6), 801−808 (2023)
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特異的アプタマーを用いたロイコマラカイトグリーンの新規迅速高感度比色検出法

Chutikarn Jaengphop, Thararat Phurahong,廣野育生,Soranuth Sirisuay, Nontawith Areechon, Sasimanas Unajak
 ロイコマラカイトグリーン(LMG)は,動物組織中に長期間蓄積する可能性があり,消費者の健康に影響を及ぼす発がん性物質に分類されている。LMGによる水産物汚染の有無を調べることは,残留汚染を防ぐために必要である。本論文では,金ナノ粒子(AuNPs)を用いた比色法に基づくLMGの検出法を開発した。一本鎖DNAアプタマーのLMGに対する特異性は,LMGと他の抗生物質を用いて確認した。LMG−アプタマーの結合親和性は1.94 pMのKd値を示した。比色検出モジュールの開発にも成功し,標準的なLMG物質を用いたLMGの検出限界値は250 nMであった。本研究は,残留化学物質を迅速かつ高感度に検出する方法を実証し,水産物の汚染の可能性を低減するものである。これらのことからアプタマーを用いた比色法は,沈着した残留化学物質を検出するための迅速で安価な分析法を提供できる可能性がある。

89(6), 809−821 (2023)
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亜熱帯性褐藻オキナワモズク由来マンヌロン酸C5−エピメラーゼの酵素性状解析

坂上美卯,大西裕季,熊木康裕,相沢智康,井上 晶
 亜熱帯性褐藻オキナワモズク胞子体からマンヌロン酸C5−エピメラーゼ(MC5E)候補タンパク質(CoC5−1)のcDNAをクローニングし,昆虫細胞により組換えCoC5−1を分泌発現した。精製酵素をポリマンヌロン酸に作用させると,基質のグルロン酸含量が10%から32%へ増加することが1H−NMR解析により明らかになった。興味深いことに,寒冷性褐藻マコンブ由来MC5EのSjC5−VIが50°C,1時間の処理で完全に失活したのに対して,CoC5−1は70°C,1時間の処理後も完全に失活しなかった。

89(6), 823−835 (2023)
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カツオKatsuwonus pelamisの骨由来のカルシウムヒドロキシアパタイトとその水溶性成分の骨形成能と抗骨粗鬆症活性

Chakkapat Aenglong, Qing-Juan Tang, Supita Tanasawet, Wanwimol Klaypradit, Wanida Sukketsiri
 本研究では,カツオKatsuwonus pelamisの骨由来のカルシウムヒドロキシアパタイト(HA)と,HA塩化物クエン酸塩(HA−Cl−Ci)およびHAヒドロキシド乳酸塩(HA−OH−Lac)のようなHAの水溶性成分の骨形成能と抗骨粗鬆症活性を調べた。HAは,骨形成の増殖と分化を促進した。また,HA, HA−Cl−CiおよびHA-OH-Lacは,グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症を防ぐと考えられた。これらの化合物由来のCa, PおよびMgは腸管で吸収され,骨形成の増殖,分化および抗骨粗鬆症活性がもたらされたと考えられる。
(文責 沖野龍文)

89(6), 837-852 (2023)
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プラーチョンChanna striataの鱗・皮の混合ゼラチンの物理化学的性質,官能基,微細構造に及ぼす抽出時間の影響

Rosmawati, Sri Fatmah Sari, Asnani, Syamsuddin
 本研究では,異なる抽出時間におけるプラーチョンの皮・鱗の混合ゼラチンの物理化学的,官能基的および微細構造的特性を明らかにした。鱗・皮の混合ゼラチンは,抽出時間の違いによる差はとくに認められなかったが,色調評価については,抽出15時間後にゼラチンの黄色度が低下する傾向が認められた。顕微鏡写真分析により,12時間抽出後のゼラチンは,15時間抽出および18時間抽出後のゼラチンと比較して,空洞が小さく密であったが,18時間まで抽出時間が長くなっても,ゼラチンの物理化学的特性に変化は見られなかった。
(文責 大迫一史)

89(6), 853−862 (2023)
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韓国済州島の砂浜に生息する巻貝Nassarius livescensにおけるテトロドトキシン及びその類縁体のLC-MS/MSによる検出

Hyun-Ki Hong, Nobuhisa Kajino, Bong Ki Park,
Jong-Seop Shin, Jihyun Lee, Kwang-Sik Choi
 ナトリウムチャネル遮断神経毒テトロドトキシンは,熱帯および温帯の浅海域に生息する巻貝に見られ,これらが食用に利用されることで中毒リスクがある。本研究では韓国済州島で採集された15種類の巻貝を対象に,TTXの存在を調査した。その結果,Nassarius livescensの筋肉と内臓からTTXが検出され,他の14種からは検出されなかった。N. livescens 30個体において,筋肉中のTTX含有量は約3,000 μg/kg,内臓は約1,460 μg/kgで,検出頻度は筋肉で83.3%,内臓で70.0%と高かった。これにより,ほとんどのN. livescensにTTXが含まれていることが判明した。
(文責 高田健太郎)

89(6), 863−873 (2023)
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SYBR Green-based real-time PCR法を用いた加工食品中のサバ属の包括的および種特異的検出法

崔 巍,佐野雄基,小山寛喜,黒瀬光一
 サバはアレルギー食品であり,食品衛生上の観点から加工食品中のサバの有無を評価することは重要である。本研究では,サバ属(マサバ,ゴマサバ,タイセイヨウサバ,およびタイセイヨウマサバ)核リボソームDNAの内部転写スペーサー領域を標的としたreal-time PCR法による迅速かつ正確で感度の高い2種類のサバ検出方法を開発した。検出限界はサバDNA 1 pgであり,0.001%(w/w)以上のサバ肉を含む混合物からのサバDNAの検出も可能であった。加工食品中のサバ属検出に対する本法の有効性も確認した。
89(6), 875−887 (2023)
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