Fisheries Science 掲載報文要旨

交雑,倍数体およびクローン魚の減数分裂と配偶子形成:
ドジョウMisgurnus anguillicaudatusにおける事例研究(総説)

荒井克俊

 ドジョウでは交雑,倍数体とクローン魚が自然に生じるばかりか,これらを人為交配と染色体操作により誘起できる。ドジョウと近縁種との関係を概観した後,これらを材料とした染色体(セット)構成,減数分裂と配偶子形成に関する結果を整理,総述した。偶数の染色体セットを持つ倍数体は妊性を示すが,奇数のセットを持つ倍数体は,生殖腺の未分化から異数体配偶子形成までの様々な不妊性を示した。交雑種は多くの場合不妊となるが,非還元配偶子形成,減数分裂雑種発生,あるいは雌性発生によるクローン生殖が生じる例もあった。

89(5), 537−570(2023)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


エコパスモデルにより推定した京都府沿岸域の漁業生態系に対するレジームシフトの影響

井上 博,亘 真吾,澤田英樹,
Edouard Lavergne,山下 洋
 京都府沿岸域を対象に寒冷/温暖レジーム期,漁業構造が異なる1985年と2013年のエコパスモデルを構築した。両期間で複数の生態系指標値を比較し,生態系構造の変化や生態系に対する漁業の影響を評価した。漁獲物の基礎生産要求量は1985年の方が高く,マイワシの影響の大きさを反映していた。漁獲物の平均栄養段階や雑食度指数は,温暖期に食物網構造の安定性が高まったことを示唆した。漁業の持続性を示すPsust解析では,定置網が主体の2013年の漁業構造が,まき網と定置網が主体であった1985年より持続的な漁業に貢献していることが示された。

89(5), 573−593(2023)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


クラゲ調査のための大型張網の有効性

賈 川,藤森康澄,王 孝程,関 春江
 クラゲはゼラチン質で柔軟であるため,形状を完全に保持したままの採集が困難である。本研究では,ミズクラゲとエチゼンクラゲを対象として,中国の沿岸漁業で使用される魚捕用の袋付き張網と袋なしの張網を用いて比較採集試験を行い,クラゲ調査における有効性を調べた。試験では,形状を保ったクラゲを大量に採集することができ,傘径と湿重量の関係を正常に推定することができた。この方法により,沿岸域におけるクラゲ類の生物的特徴や分布を精度よく調査できるものと思われる。

89(5), 595−603(2023)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


エゾアワビHaliotis discus hannaiの鰓における細胞増殖,幹細胞,および上皮間葉転換マーカーの検出

袖山 吟,古賀灯真,森 雄一,稲玉涼太,
森 一馬,小倉千佳,木野村茜,舩山翔平,
森山俊介,奥村誠一,古川史也
 本研究では,腹足類エゾアワビの鰓において,細胞増殖マーカーである増殖細胞核抗原PCNA,リン酸化ヒストンH3,およびBrdUに加え,推定幹細胞マーカーとしてSox遺伝子の発現,および上皮間葉転換マーカーとして核内局在型のβ-cateninの局在を検討した。その結果,繊毛を備え,厚みのある上皮組織で構成される鰓葉縁辺部にこれらのシグナルが検出された。これらの結果から,鰓葉の辺縁部は増殖性が高く,幹細胞性を有し,EMTが進行している可能性が考えられる。

89(5), 605−612(2023)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


クルマエビの肝膵臓に特異的なビテロジェニンの遺伝子の発現変動

マーワ・サイド・エルドスキー,
城ケ谷哲矢,山根史裕,泉川晃一,
柿沼 誠,坂本竜哉,筒井直昭
 クルマエビの新規な卵黄タンパク質前駆体をコードする遺伝子(Maj-Vg2)を肝膵臓のトランスクリプトーム解析により見出し,解析した。既報のMaj-Vg1は肝膵臓と卵巣で発現するのに対し,Maj-Vg2の発現は肝膵臓に特異的であった。自然成熟した個体のMaj-Vg2の発現は,前卵黄形成期で低く,卵黄球期前期以降に増加した。また,未熟個体の眼柄切除により,肝膵臓におけるMaj-Vg2の発現は,卵巣におけるMaj-Vg1の発現と同様に有意に増加した。以上から,本種の卵黄蓄積にはMaj-Vg1Maj-Vg2の両方が寄与していると考えられた。

89(5), 613−623(2023)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


海産大型藻類における機能的形質の協調の基礎となる生理的・構造的トレードオフについて

坂西芳彦,葛西広海,田中次郎
 海産大型藻類における生理的・構造的トレードオフを評価するため,トレードオフを表す1本の軸とトレードオフに関連する機能形質間の相関を検討した。主成分分析の結果,6つの機能形質に関する多次元データ空間を集約する1本の軸が確認され,トレードオフに基づく機能形質の組み合わせは保守的戦略から獲得的戦略へと1本の軸に沿った連続性を持つことが明らかになった。また,標準主軸回帰(SMA regression)の結果,トレードオフに関連する主要な機能形質間の相関は陸上植物の葉で報告されているものと定性的に一致することが確認できた。

89(5), 625−632(2023)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


カキMagallana hongkongensisからのセレン依存性グルタチオンペルオキシダーゼのクローニングとカドミウム曝露および異なる温度での空気曝露に応答したmRNA発現

Citing Chen, Jialong Gao, Chaohua Zhang, Xiaoming Qin,Wenhong Cao, Huina Zheng, Haisheng Lin
 グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)は,抗酸化防御系の重要な酵素である。本研究では,Magallana hongkongensis からGPx(MhGPx)の全長cDNA配列を決定し,その発現に及ぼすカドミウム曝露および大気曝露の影響を調べた。MhGPx cDNAは3′側非翻訳領域内にセレノシステイン挿入配列を含んでいた。カドミウム暴露下では,MhGPx mRNAの発現は暴露1日目に有意に増加した。大気暴露では,4°C群のMhGPx mRNA発現量は15°C群よりも低く,発現時期も遅かった。以上の結果は,酸化ストレスに応答するカキGPxのより良い理解に貢献する。
(文責 木下滋晴)

89(5), 633−646(2023)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


水温制御によるバフンウニ未成熟期間の長期化と苦味成分プルケリミンの消失

村田裕子,干川 裕,金田友紀,
片山知史,東屋知範,鵜沼辰哉
 北日本に生息するバフンウニは,卵巣に苦味成分プルケリミンを含む個体が通年見られ,漁獲利用されない。北海道産バフンウニを8月から3月まで生息地より高い水温で飼育したところ,秋に始まる配偶子形成とプルケリミンの蓄積が遅れた。また,産卵期(4月)から速やかに水温を高めたところ,未成熟期への移行とプルケリミンの消失が早まった。北日本ではバフンウニを漁獲利用する海域と比べて海水温が20°Cを超える日数が少ないことから,食用に適さないのは高水温期が短いためであり,加温して養殖すれば品質改善が可能と考えられた。

89(5), 647−658(2023)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


フナCarassius auratus飼育水へのBrevibacillus laterosporusの添加は水質,成長,抗酸化能,消化酵素活性を向上させる

Darong Yang, Zhenhua Wang, Xixi Dai,
Minggang Liu, Dongmei Zhang, Yan Zeng,
Dong Zeng, Xueqin Ni, Kangcheng Pan
 Brevibacillus laterosporus PBC01株(以下BL)をフナ飼育水に5×103,5×104および5×105 CFU/ml添加して56日間飼育し,飼育水の水質と,飼育魚の状態を無添加対照区と比較した。水質については,窒素濃度とAeromonas属細菌数がBL添加により減少し,その効果は添加量依存的であった。飼育魚の成長,血漿および肝臓の抗酸化能,および消化管の消化酵素活性もBL添加により向上した。以上より,適正量のBLは,フナの成長を促進し,健康状態も改善させるプロバイオティクス効果を示すことがわかった。
(文責 井上広滋)

89(5), 659−670(2023)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


ブリの幽門垂抽出物を使用した魚類の筋肉粉の消化に及ぼす加熱時間の影響の評価

安藤 忠,安池元重,石原賢司,藤原篤志
 加熱による魚類筋肉の消化性の変化をブリ幽門垂から調製した消化酵素混合物を使用して評価した。スケトウダラ(WP),ブリ(YT),マサバ(CM)の背部筋肉とマサバ全魚体(WM)から凍結乾燥粉を調製し,蒸留水中で99°Cに加熱,続いて消化しアミノ酸量を定量した。その結果,WP,YT,CMにおいて生じた必須アミノ酸量は非加熱粉末に比較して3分加熱後に81.3%,72.0%,66.9%に低下し,その後も低下が継続した。WMはCMよりも低下した。したがって,ブリの飼料原料にはWPが最適で,加熱時間を最短にすること,および内臓を除去することが重要であると考えられた。

89(5), 671−685(2023)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


海産回遊魚サンマにおけるDHA合成酵素の機能解析:サンマはDHAを自ら合成できる

松下芳之,壁谷尚樹,川村 亘,芳賀 穣,佐藤秀一,吉崎悟朗
 サンマの豊富な脂質にはドコサヘキサエン酸(DHA)が大量に含まれている。海産魚は一般にDHAを合成できず,餌からの摂取に依存していると考えられてきた。サンマもまたDHAを合成できず,その豊富なDHAは全て餌に由来するのだろうか。我々は本種のDHA合成能を明らかにするため,脂肪酸不飽和化酵素および鎖長延長酵素の機能解析を行った。その結果,サンマはドコサペンタエン酸から直接DHAを合成するΔ4不飽和化酵素をはじめ,α−リノレン酸からのDHA合成に必要な酵素機能のすべてを具えていることが明らかになった。

89(5), 687−698(2023)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


ティラピアすり身の調製におけるトランスグルタミナーゼの添加と性状解析

Ping-Hsiu Huang, Yu-Tsung Cheng, Yung-Jia Chan, Wen-Chien Lu, Wen-Ching Ko, Hung-Chun Hsieh, Po-Hsien Li
 細菌由来のトランスグルタミナーゼ(TGase)は練り製品のすわりに関わる。TGaseを添加したティラピアすり身についてすわり時の加熱を変化させたところ,TGaseの添加により硬度,弾性,ゲル強度,保水力が有意に増加した。また,G′とG″の値が増加した一方,tanδは減少した。さらに,TGaseによりミオシン重鎖が架橋されて高分子成分になることも確認した。ティラピアすり身は,0.147 U/gのTGaseを加えて,40−50°Cで1時間反応させると良質になった。
(文責 神保 充)

89(5), 699−708(2023)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


加熱後に貯蔵したブリ肉Seriola quinqueradiataの臭いに対する真空包装の効果

向島佳織,好井みなみ,中塩朱音,馬渕良太,古田 歩,谷本昌太
 本研究では,加熱後に貯蔵したブリ肉の臭いに対する真空包装(VP)の効果を検討した。VPは,加熱後の貯蔵中の普通肉および血合肉の脂質酸化指標の上昇および多価不飽和脂肪酸の減少を抑制した。また,VPが普通肉および血合肉の貯蔵中における揮発性成分組成の変化を抑制可能であった。官能評価の結果,VPは,加熱後の貯蔵中におけるブリ肉の臭いの劣化を抑制し,特に血合肉については貯蔵による嗜好性の低下を抑制可能であることを示した。上記のVPの効果は,包装のタイミング(一次加熱の前または後)には依存しなかった。

89(5), 709−721(2023)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法