Fisheries Science掲載報文要旨

2008年から2017年のライントランセクトデータを用いた太平洋日本沿岸におけるツチクジラの資源量推定

佐々木裕子,金治 佑,袴田高志,
松岡耕二,宮下富夫,南川真吾

 2008年以降に水産資源研究所(旧遠洋水産研究所,国際水産資源研究所)が4回にわたって太平洋日本沿岸で実施してきた目視調査,および日本鯨類研究所が2016年に実施した目視調査のデータを用い,ツチクジラの資源量を推定した。各調査から得られた目視データおよび船のタイプ,海況,群サイズを用いて発見関数を構築した結果,船のタイプと群サイズを共変量としたハーフノーマルモデルが最適な発見関数として選択された。推定された資源量は,2008年が1524頭(CV=0.72),2009年が1546頭(CV=0.81),2015年が1093頭(CV=0.54),2016年が1034頭(CV=0.51),2017年が 3596頭(CV=0.82)であった。

89(4), 439-447(2023)
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クルマエビ・リンパ器官細胞の初期培養における持続的培養を妨げる経路を特定するためのトランスクリプトーム解析

土谷晃史,岡村 洋,河野智哉,引間順一,酒井正博

 エビ類の病原性ウイルス研究において,エビ類不死化細胞株がないことが学問的進展を妨げてきた。本研究では,クルマエビMarsupenaeus japonicusのリンパ様組織細胞を初期培養したときの増殖を妨げる要因について理解するために,培養後に細胞死が大きく増加したタイミングの細胞について,RNA-Seq解析を実施した。その結果は,血管内皮増殖因子(VEGF)およびその受容体遺伝子の発現が著しく減少していることを明らかにし,これらの遺伝子発現がリンパ様組織細胞の培養安定化に重要であることを示唆した。

89(4), 449-462(2023)
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低水温と流量増加が引き金となるアユPlecoglossus altivelisの産卵降河

永山滋也,藤井亮吏,原田守啓,末吉正尚

 2020年と2021年の9-11月,長良川において,落ちアユを採捕する瀬張り網漁7サイトの漁獲データを用いて,アユの産卵降河トリガーを調べた。アユの漁獲量は,低水温(日平均で約18℃以下)となり,かつ増水(規模に依らない)した時に増えた.大漁となる日は,水温が約15℃以下に急落した10月中旬以降であった。大型のアユは漁期の前半に多く獲れた.アユの産卵降河は水温と流量の階層的相互作用で生じることが分かった。これは,アユに対する温暖化影響の予測,アユ資源の持続的利用と保全に寄与する。

89(4), 463-475(2023)
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飼料中のαトコフェロール酢酸塩はハタ雑種(Epinephelus fuscoguttatus×E. lanceolatus)の成長,脂質の酸化状態を改善し,抗病性を向上させる

Isabella Ebi, Annita Seok Kian Yong, Leong-Seng Lim,
Yu Hung Lin, Rossita Shapawi

 体重7.74 gのハタの雑種における成長と抗酸化状態,Vibrio harveyiの感染に対する抵抗性に及ぼす飼料中αトコフェロールの影響を評価した。αトコフェロールの添加により10週間後の増重率と日間成長率が改善され,総給餌量も改善された。筋肉と肝臓中のαトコフェロール量は添加量に伴って増加し,肝臓中のTBAは減少し,Vibrio harveyiに対する抗病性も改善した。飼料中122 mgのαトコフェロールは成長と感染症への抵抗性を改善したが,415または815 mgで脂質の抗酸化力が最大となった。

(文責 芳賀 穣)

89(4), 477-485(2023)
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ミルクフィッシュの初期成長段階における成長,血液,腸組織およびVibrio harveyiに対する抵抗性に及ぼす飼料中アスコルビン酸の影響

Thirugnanamurthy Sivaramakrishnan,
Thangaraj Sathish kumar,
Kizhakkekarammal Puthiyedathu Sandeep,
Aritra Bera, Ramalingam Ananda Raja,
Sujeet kumar, Muniyandi Kailasam,
Nathan Felix & Kondusamy Ambasankar

 アスコルビン酸(AA)添加飼料がミルクフィッシュ仔魚に及ぼす影響を調べた。AA含有量が0−2000 mg/kgの5段階の実験飼料を用意した。500および1000 mg/kgでは,成長,生残で良好な成績を示した。赤血球数は500 mg/kgで最高値となった。500および1000 mg/kgでは,絨毛長,薄層前膜厚,薄層前膜中リンパ球濃度が高かった。1000 mg/kgでは,Vibrio harveyi攻撃試験で,生残率が高くなった。成長,飼料効率,生残の最適値は,1,174−1262 mg/kgの範囲で得られた。

(文責 小谷知也)
89(4), 487−496(2023)
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集積培養により河口域堆積物から分離されたポリスチレン(PS)付着細菌の諸性状

Shaikh Tareq Arafat,平野 栞,佐藤杏樹,
竹内勝則,安田哲矢,寺原 猛,小林武志

 水圏環境中のマイクロプラスチックに付着する細菌に関する基礎的な知見を得るため,東京湾河口域の堆積物を用い,PSを用いた集積培養により細菌を分離した。分離株は13の属に同定され,一部は日和見菌Brevundimonas diminutaであった。分離株の多くはPS上でバイオフィルム形成能を有した。形成株にはアミノグリコシド系に耐性を示す傾向が認められたものの,テトラサイクリンに感受性を示した。また,形成株はエステラーゼなどの酵素活性も示し,カゼイン,Tween 80,デンプンなどを分解した菌株も認められた。

89(4), 497-505(2023)
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サケ鼻軟骨コラーゲンの性状:カビ由来酸性プロテアーゼを用いた可溶化

水田尚志,松山雄大,水田かほり,細井公富,横山芳博

 サケ鼻軟骨より,クモノスカビ由来の酸性プロテアーゼを用いてアテロ化コラーゲンを調製した。コラーゲンに対し1/20量(w/w)の同酵素を添加しpH 3.0, 4℃にて48時間撹拌することで総コラーゲンの60%以上が可溶化された。これを酸性条件下での硫安分画に供することで可溶性画分(XI型コラーゲン画分)を得た。本画分はSDS-PAGEにおいて3本のα鎖を示し,アミノ酸組成では脊椎動物Ⅰ型コラーゲンに比べAlaに乏しく(57残基/1,000残基),Hylに富む(42残基/1,000残基)などV型/XI型コラーゲンの特徴を示した。

89(4), 507-513(2023)
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B16F10細胞およびゼブラフィッシュでのメラニン産生に対するアカナマコ水溶性抽出物の影響

Hui-Kai Hsu, Teng-Lung Chang, Yung-Song Wang

 アカナマコ乾物の生産過程で生じる煮熟廃液の活用を目的とし,日本および台湾産養殖アカナマコの熱水抽出物の凍結乾燥品について,B16F10細胞およびゼブラフィッシュ胚での抗メラニン産生作用を検討した。台湾および日本産アカナマコ熱水抽出物100 mg中にはサポニンがそれぞれ3.45および6.48 mg含まれると算出された。これら抽出物はB16F10細胞およびゼブラフィッシュ胚でメラニン蓄積量を減少させ,メラニン産生関連遺伝子の発現を濃度依存的に抑制したことから,抗メラニン産生作用を示すことが確認された。

(文責 渡邊壮一)

89(4), 515-526(2023)
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チョウザメ皮膚由来精製コラーゲン加水分解物と皮膚組織加水分解物の線維芽細胞活性化能の比較

寺内直也,孟 大威,李 ?,
稲田浩士,浦 和寛,都木靖彰

 チョウザメ皮膚由来精製コラーゲン加水分解物は皮膚組織加水分解物に比べて線維芽細胞増殖促進能が強かった。また,後者は高濃度で細胞遊走を阻害したことから,チョウザメ皮膚を加水分解物として活用する場合十分にコラーゲン精製度を上げる必要があることが示された。また,精製コラーゲン加水分解物の線維芽細胞増殖促進能は分子質量依存性が低く,特定のペプチドではなく多様なペプチドが活性を持つものと思われる。

89(4), 527-535(2023)
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