Fisheries Science掲載報文要旨

宮川水系大内山川におけるアユの新由来判別法

山本敦也,服部碧実,伊藤真莉奈,
増渕隆仁,渡邊典浩,金岩 稔

 宮川水系大内山川において側線近くの鱗の大きさと尾叉長の比率を用いて放流と天然アユの由来判別を試みた。ランダムフォレストによる判別では正答率は87.4%であったが4箇所からの鱗の採取が必要と判断された。1変数のみを用いたロジスティックモデルでは尻鰭基部後方端直上の側線の鱗幅と尾叉長の比率が85.0%と高い正答率を示し,この比率が0.0103よりも小さいと天然と予測された。鱗数枚の採取,1箇所の計測で由来判別可能であることは低コストで,広範囲なサンプリングに有用な方法の一つになると考えられた。

89(3), 281‒288(2023)
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三陸沖の越冬摂餌域におけるキタオットセイ個体数のベイズ推定

金治 佑,村瀬弘人,永島 宏,南 憲吏,
松倉隆一,瀬藤 聡,佐々木裕子,米崎史郎

 我が国太平洋岸におけるキタオットセイの個体数をベイズモデルを用いたライントランセクト法により推定した。個体数推定値の中央値と95%信用区間は2004年に8191(5441:13873),2005年に1288(725:2756),2007年に5672(3111:13543)であった。本推定値は繁殖地から来遊する個体群の一部のものであるが,三陸沖は生息地の南端にあり重要な越冬・摂餌場である。推定値から,キタオットセイが同海域で数量的に最も重要な高次捕食者の一つであることが示された。

89(3), 289-299(2023)
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広帯域計量魚群探知機によるナンキョクオキアミの体積後方散乱スペクトルの測定

山本那津生,甘糟和男,安部幸樹,松倉隆一,
今泉智人,松裏知彦,村瀬弘人

 南極海東インド洋区において広帯域計量魚群探知機と矩形中層トロールによる同時サンプリングを実施し,ナンキョクオキアミの50‒85,95‒255 kHzにおける体積後方散乱スペクトルを測定した。Stochastic distorted wave Born approximation変形円柱モデルによる理論スペクトルと比較した結果,体長35 mm以下が優占する場合,両者は比較的一致した。一方,35 mm以上の場合は一致しなかった。この不一致の要因は,姿勢角分布と体形状の影響と考えられた。

89(3), 301‒315(2023)
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参加型アクションリサーチで得たタツノオトシゴ漁の空間的・時間的傾向から探る将来的な管理の基盤

José Amorim Reis-Filho

 職業漁業の持続可能性を評価することは,モニタリング不足もあって難しい。しかし,絶滅危惧種の持続可能性評価は極めて重要である。本研究では4年間の参加型アクションリサーチにより,違法なタツノオトシゴ漁をモニターした。Hippocampus reidiは国際自然保護連合(IUCN)の保護種であり,ブラジルでは法的に保護されているにもかかわらず,成熟した個体と子育て中の個体が,調査地域(ブラジルのトードス・オス・サントス湾)では広く捕獲されている。漁獲された5763匹のタツノオトシゴを集計したところ,タツノオトシゴの生息地分布は,海草が49.3%,マングローブが29.7%であった。主に使用された漁具は地引網で,全体の68.7%を占めた。個体サイズと性別には時空間的なばらつきが認められたが,各漁場における単位努力あたりの漁獲量(CPUE)は年を経ても一定だった。最尤法を用いた発生確率の分析から,タツノオトシゴ漁に必要な漁師の技能として,タツノオトシゴが好んで分布する空間を把握する感覚が鋭敏であることが関わっていることが明らかになった。この違法行為は,政府機関による監視の不在,漁業者の意識の低さ,並行市場におけるタツノオトシゴの取引価値の高さなど,いくつかの要因によって存続していると思われる。この調査結果を受けて,活発に漁獲され続けるこの絶滅危惧種の監視,管理,保護活動に地元利害関係者の参加が促進されるかもしれない。

89(3), 317-329(2023)
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五島列島沖の浮魚礁の魚類相とその出現特性

高橋千代,眞角 聡,丸山裕豊,
内田 淳,広瀬美由紀,松下吉樹

 五島列島の2つの浮魚礁における魚類の出現を,2019年5月から2020年10月までタイムラプスカメラで観察した。15種,99,997個体の出現を確認した。最も多く出現した種はヒラマサ,メジナ,シイラであった。これらの種の出現と環境要因との関係を一般化線形混合モデルによって調べた。ヒラマサの出現は,海面水温と風向の影響を受け,これらは季節を示すと考えられた。メジナとシイラの出現は,これらの影響に加え,日照時間や風速,月齢が影響し,メジナは荒天時に,シイラは静穏時に出現することが推察された。

89(3), 331-341(2023)
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播磨灘におけるカイアシ類の個体群動態とバイオマスの季節変動

西川哲也,渡辺 剛,塩谷 剛,
泉 周作,古澤一思,田所和明

 瀬戸内海東部の播磨灘に設けた3定点において,月1回の頻度で3か年,カイアシ類の出現状況を調査した。播磨灘では,ノープリウス幼生,コペポディッド期以降いずれもParacalanus spp., Oithona spp.およびMicrosetella spp.が優占した。また,バイオマスではParacalanus spp.,Microsetella spp.および,Oithona spp.に代わってCalanus sinicusが優占した。カイアシ類群集成体のバイオマスは,季節的に3つのクラスターに分類することができ,それぞれのグループの代表種はMicrosetella norvegica, Paracalanus parvus s.l.およびC. sinicusであった。

89(3), 343‒356(2023)
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パンガシウスのフロルフェニコール経口投与による薬物動態

P. Q. Vinh,N. Q. Thinh,M. Devreese,
S. Croubels,D. T. H. Oanh,
Anders Dalsgaard,舞田正志,T. M. Phu

 近年,アジア地域で生産量が増加しているパンガシウスの疾病対策として使用されるフロルフェニコールの適正使用に資するため,知見が乏しい経口投与による薬物動態を調べた。体重100 gのパンガシウスに10 mg/kg体重のフロルフェニコールを経口投与し,経時的に血漿,肝臓,腎臓のフロルフェニコールを定量し薬物動態パラメータを算出した。消失半減期は2.56時間で,12時間間隔での投与によりMIC以上の体内濃度を維持できることが分かった。残留基準を下回るために要する時間は水槽飼育で2日間,池中飼育で4日間であった。

89(3), 357‒365(2023)
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Spotted scat稚魚の塩分耐性および最適飼育密度

Monsuang Yangthong,Montathip Suratata,
Adjakab Nontaso,Jirayuth Ruensirikul,金子 元

 広塩性魚spotted scatの養殖条件を確立するための一助として,稚魚を用いて2つの実験を行った。孵化場から様々な塩分条件の養殖場への輸送を想定した塩分耐性実験では,淡水から30 pptの環境水に実験魚を移した際の生存率に有意なサイズ依存性が認められた。また,孵化場でのコスト低減を目的とした80日間の淡水飼育実験では,稚魚の成長度等が密度依存的に低下し,250個体/m3が最適な飼育密度と推定された。

89(3), 367-373(2023)
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沿岸域の複合養殖場における魚類養殖の表層堆積物へのリンの負荷の影響

多田邦尚,中國正寿,
Jidapa Koomklang,山口一岩,一見和彦

 瀬戸内海の志度湾において,表層堆積物中の有機態炭素・全窒素および全リンの水平分布を明らかにし,魚類とカキ養殖の影響について検討した。更にリンの分画分析も行った。相対的に高いリン含量が魚類養殖場で認められた。更に相対的に高いCa型リン(Ca‒P)と難分解性リン(Ref‒P)含量が魚類養殖場で認められ,餌の小魚の骨によるものと考えられた。水産養殖場の表層堆積物中のP/C比や,リンのCa‒PやRe‒P画分を測定することは,魚類養殖における有機物負荷の影響の良い指標であり,またその特徴を知る良い手段である。

89(3), 375‒386(2023)
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シチヨウシンカイヒバリガイシステアミンジオキシゲナーゼの異種発現と機能解析

依田浩太郎,髙木俊幸,小糸智子,岡井公彦,
牧田寛子,光延 聖,吉田尊雄,井上広滋

 深海熱水噴出域固有の二枚貝シチヨウシンカイヒバリガイから,システアミンをヒポタウリンに変換する酵素であるシステアミンジオキシゲナーゼ(ADO)のcDNAを単離した。演繹アミノ酸配列(BsADO)において機能上重要なアミノ酸残基の保存が認められ,分子系統解析では既知ADOとの相同性が示された。mRNA発現は調べた全ての組織から検出された。BsADOを大腸菌に発現させる際,培養時に鉄を添加することで活性が得られた。組換えBsADOは0‒37℃(至適温度20℃)の条件下で活性を示したが,pHについては7以下では活性が低かった。

89(3), 387‒397(2023)
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大顎器官抑制ホルモンのRNAiノックダウンはチュウゴクモクズガニEriocheir sinensisの卵黄形成を促進する

Shuquan Ding, Mengting Huang, Na Sheng,
Tiantian Chen, Ruihan Xu, Zhaoyuan Luo,
Xiuqin Huang, Zhicheng Wan, Shiping Su, Xilei Li

 チュウゴクモクズガニEriocheir sinensisの眼柄より大顎器官抑制ホルモン(MOIH)の遺伝子を単離し,詳細な配列解析およびリアルタイムPCRによる組織別・発生段階別の発現解析を行なった。本遺伝子の発現量が高かった肝膵臓において,発生段階ごとのMOIHおよびビテロジェニン遺伝子の発現量に強い負の相関がみられた。そこでRNAiを用いてMOIH遺伝子をノックダウンしたところ,卵巣および肝膵臓でビテロジェニンの発現が増大した。これらの結果は,本種においてMOIHがビテロジェニンを負に制御することを示す。
(文責 金子 元)

89(3), 399-408(2023)
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食用褐藻中のラミナランを測定するための酸抽出‒酵素法

熊谷百慶,小笠原慶悟,井出将博,栗原秀幸,加藤早苗

 褐藻由来β‒グルカンであるラミナランを含む新たな機能性食品を開発する際,ラミナランの精確な定量法が必要となる。本研究では既存の次亜塩素酸ナトリウム抽出‒酵素法がラミナラン測定へ適用可能かを調べるとともに,迅速かつ簡便な新規定量法(酸抽出‒酵素法)を開発した。褐藻アラメ(Eisenia. bicyclis)とアカモク(Sargassum horneri)を用いた分析法バリデーションにより,本方法の真度,精度はともに良好であることが示された。さらに,本方法はラミナランを添加した加工食品にも適用可能であった。

89(3), 409‒414(2023)
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多⿂種漁獲は漁業経営リスクの削減と持続性の強化につながるか?─北海道の⼤型定置網漁業を事例とした漁業ポートフォリオ解析

中村洸介,阿部景太,石村学志

 2018年の⽔産政策改⾰では単⼀⿂種ごとの漁獲枠管理の導⼊が決定され,特定⿂種の⽔揚げ規制を引き起こし,多⿂種漁獲を⾏う⼤型定置網漁業の収⼊を不安定にする可能性が出てきた。本研究では,単⼀⿂種ごとの漁獲枠管理による特定⿂種の⽔揚げ規制が北海道函館市の⼤型定置網漁業の収⼊に与える影響を漁業ポートフォリオ解析によって定量した。結果は,スルメイカに対して⽔揚げ規制を受けた場合平均収⼊が減少するだけでなく収⼊リスクが増加し,⼤型定置網漁業の収⼊を不安定にさせることが⽰唆された。

89(3), 415‒427(2023)
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