Fisheries Science掲載報文要旨

琵琶湖流入河川における放流されたアマゴ駆除後のイワナ生息数の回復

宮崎茜音,菅原和宏,片岡佳孝,
石崎大介,甲斐嘉晃,亀甲武志

 琵琶湖流入河川に放流されたアマゴの駆除により,イワナ個体群の回復過程を調査した。アマゴが放流される以前のイワナの生息数は200尾以上であったが,アマゴの放流後の2014年には30尾以下に減少していた。2014年にはアマゴ30尾と両者の交雑個体を2尾駆除したが,2015年から2017年にかけてアマゴは採捕されなかった。2015年から2017年にかけてのイワナの生息数は25-91尾,2021年は171-221尾で推移した。本研究はアマゴの放流によりイワナの生息数が減少し,アマゴの駆除後にイワナの生息数が回復したことを示唆する。

89(1), 1-9 (2023)
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ニシン科魚類の資源量と加入量の独立性について

Juan Carlos Pérez-Rodríguez,
Victor Manuel Gómez-Muñoz

 Ransom Myersデータベースに登録されているニシン科魚類43資源について,カイ二乗検定を用いて産卵親魚量とそれに対応する加入量の間の統計的独立性を検定した。この方法は,実態に即した仮想的な再生産曲線を用いたシミュレーションによって検証された。資源量とその加入量の独立性が棄却されたのは15例のみで,残りの28例は独立性仮説が棄却されなかった。これらの魚類資源量は再生産以外の多くの要因によって変動しており,再生産関係の適用が正当化されないことを示唆している。
(文責 松石 隆)

89(1), 11-19 (2023)
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トラフグ稚魚のフグ毒蓄積と低塩分耐性との間に見られた阻害関係

阪倉良孝,竹重璃世,高谷智裕,
荒川 修,金子豊二,天野勝文

 トラフグ稚魚のフグ毒(TTX)の蓄積が,塩分ストレスに影響を与えるかどうかを調べた。無毒の人工種苗(体重1.7±0.2 g, n=120)を水槽6基に分け,血液浸透圧とほぼ等しい塩分(8.5 ppt)で馴致し,無毒飼料を与える対照区とTTX添加飼料(356 ng/g diet)を給餌するTTX区の3基ずつに分けた。次に,各々の飼料区に対して低塩分(1.7 ppt)または高塩分(34 ppt)に変化させる水槽を1基ずつ設け,33日間飼育した。生残率は8.5 ppt(70%)が最も高く,1.7 pptのTTX区(20%)が最も低かった。血漿浸透圧は8.5 pptで有意に高く,1.7 pptでは血漿コルチゾル濃度が有意に高い値を示した。トラフグ稚魚がフグ毒を保有することは,低塩分下で生命維持に支障の起こる可能性がある。

89(1), 21-28 (2023)
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サケ仔魚における水腫症の生理学的特徴

伴 真俊,日田和宏,桑木基靖,
洞内哲雄,大貫 努,大迫典久

 2015年から2017年の冬に,北海道の孵化場-Xで観察された水腫症(BSD)様のサケ仔魚Oncorhynchus ketaについて,諸器官の組織学的観察と栄養成分の分析を行った。病魚の肝臓では体液が漏出しているような空隙が観察され,腎臓ではボーマン嚢と糸球体間の間隔が正常魚より広がっていた。また,病魚は正常魚に比べて肝臓のグリコーゲン量および血漿のタンパク質濃度とトリグリセライド濃度が有意に低下していた。サケ仔魚のBSDは,肝臓および腎臓の病変によって引き起こされる体液調節の障害と血漿成分の不均衡が原因で生じる可能性が考えられる。

89(1), 31-40 (2023)
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死亡したサクラマスOncorhynchus masou masouから分離した病原菌の同定と性状および病原菌に対するプロバイオティクスLactococcus lactis subsp. lactis K-C2株の抗菌活性

八坂友里恵,Phan Trong Binh,早見祐紀,
田中竜介,内田勝久,田岡洋介
 循環型ヤマメ‒サクラマス養殖で発生する疾病予防に対して,プロバイオティクスL. lactis subsp. lactis K-C2株の有効性を検証するため,ヤマメ及びサクラマス由来病原菌に対するK-C2株の抗菌活性を評価した。16S rDNA遺伝子配列に基づく系統解析及び生化学的性状検査の結果,死亡したサクラマスから分離した病原菌のうち,6株をVibrio anguillarum,1株をTenacibaculum maritimumと同定した。二重寒天平板法を用いた抗菌活性試験において,K-C2株はヤマメ死亡個体から分離されたAeromonas salmonicida,本研究において新たに分離したV. anguillarumおよびT. maritimumに対し,強い抗菌活性を示した。
89(1), 41-51 (2023)
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飼育水の循環率はワカサギ仔魚の成長に影響を与える

増田賢嗣,宮本幸太,関根信太郎

 ワカサギの仔魚は,その独特の塩分耐性と口の小ささのため,安定して高い成長と生残を可能にする飼育法は知られていない。本研究では筆者らが開発した閉鎖循環システムを用い,水温20℃以下,塩分0.2-0.3%の条件で,SSワムシ及び市販の配合飼料を用いてワカサギ仔魚を飼育し,飼育水の循環率について648%/日以下と2,160%/日以上とで仔魚の成長及びワムシ密度を比較した。その結果,飼育水の循環率は仔魚がワムシを摂餌する機会に影響し,ワカサギ仔魚の成長に影響を及ぼすことが明らかになった。

89(1), 53-60 (2023)
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微細藻類種とホルモン添加が重イオンビームワムシのサイズと増殖能に与える影響

金 禧珍,中村海智,阪倉良孝,菅 向志郎,常泉和秀,
阿部知子,山田美恵子,川田実季,片山貴士,
手塚信弘,小林敬典,小磯雅彦,萩原篤志

 先行研究で重イオンビーム照射により大型化したイオンビームワムシ(以下,ワムシ)を用いて,微細藻類3種(Nannochloropsis oculata, Tetraselmis tetrathele, Chlorella vulgaris)の給餌条件下で,幼若ホルモン(JH)又はγアミノ酪酸(GABA)を添加してワムシのバッチ培養を行い,被甲長と増殖率を調べた。その結果,T. tetrathele給餌時にJHを添加した場合,顕著なサイズの拡大が観察され,C. vulgaris時(ホルモン無添加)の約1.4倍となった。また,N. oculata給餌にGABAを添加した場合,最も個体群増殖が促進され,個体群増殖率がホルモン無添加区と比べて約1.2倍となった。

89(1), 61-69 (2023)
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アセトアミノフェン誘導HepG2細胞に対する,マガキタンパク質消化産物由来ペプチド(VTAL)の抗酸化作用と保護作用

Selvakumari Ulagesan, Su-Jin Park,
Taek-Jeong Nam, Youn-Hee Choi

 酸化ストレスは,肝障害に深く関わっている。マガキタンパク質をプロテアーゼ消化して得られた消化産物から,抗酸化ペプチドVTALを精製した。このペプチドはアセトアミノフェン(APAP)で誘発したヒト肝ガン細胞HepG2に対し有意な抗酸化作用と保護作用を示し,その作用は濃度依存的だと示唆される。APAP誘発HepG2の生存率は,25 µg/mLのマガキ消化産物の添加により最大となった。この消化産物のAPAPに対する保護や,抗酸化能により,APAP誘発HepG2の増殖を有意に促進した。従って,マガキ消化産物は薬物誘発性酸化ストレスや肝障害に有効であり,合成抗酸化剤の代替品ともなり得る。
(文責 神保 充)

89(1), 71-81 (2023)
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食餌性脂肪肝モデルマウスに対するシロサケ白子由来核酸の改善効果

道辰麻生,小西達也,高橋義宣

 C57BL/6Jマウスを用いた12週間の高脂肪食餌(HFD)誘発性肥満モデルによる非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に対するサケ白子核酸(SM DNA)の有効性を検証した。HFD群では体重や脂肪重量の増加やALT値の上昇が確認された。また,肝臓では脂肪滴の蓄積を認め食餌性脂肪肝が形成されていた。一方,HFDに3%SM DNAを配合した群では体重や脂肪重量,ALT値の上昇抑制が認められ,肝臓への脂肪蓄積抑制も確認された。さらにHFD群と比較して肝臓のSOD活性は有意に高かった。以上より,SM DNAはNAFLD予防の機能性食品素材として有望と考えられた。

89(1), 83-91 (2023)
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クエン酸ナトリウムによるマアジ加熱ゲル物性向上と不溶性メタロプロテアーゼの抑制効果

姜 燕蓉,吉田朝美,大田 恵,高 禕俐,
野口絵理香,桑原浩一,原 研治,長富 潔

 マアジ火戻りに関与する筋肉内在性プロテアーゼ及びクエン酸ナトリウムの添加効果を調べた。システインプロテアーゼ(60℃)とメタロプロテアーゼ(60℃と70℃)がマアジ火戻りを誘発した。筋原線維画分には不溶性メタロプロテアーゼが存在し,酵素活性の上昇に伴い加熱ゲルの劣化が認められたため,本酵素が主要な火戻り誘発因子であることがわかった。更に,クエン酸ナトリウムが本酵素活性を阻害することによる火戻りへの抑制効果が示唆された。従って,クエン酸ナトリウムの添加によりマアジねり製品の品質向上が期待される。

89(1), 93-100 (2023)
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