Fisheries Science掲載報文要旨

新潟県下越沖の2漁場におけるアカアマダイ Branchiostegus japonicus の年齢と成長

井関智明,八木佑太,上原伸二,梶原直人,藤井徹生

 耳石横断面法と表面法を用い,新潟県下越地方の沿岸域およびやや沖合の粟島近海におけるアカアマダイの年齢と成長を調べた。全長 Lt (mm) と年齢 t の関係式は,沿岸域の雌で Lt= 349[1-exp{-0.342(t+0.350)}],雄で Lt=489[1-exp{-0.237(t+0.396) }],粟島近海の雌で Lt=278[1-exp{-0.571(t- 0.372)}],雄で Lt=509[1-exp{-0.183(t+0.152)}]と推定され,各年齢時の推定全長は雌雄ともに前者で大きかった。確認された最高齢はいずれも沿岸域で得られた雌 40 歳,雄 32歳であり,他海域でこれまでに報告された雌雄それぞれの最高齢の約 2 倍に相当する。

88(6), 667-676 (2022)
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東部地中海域におけるタイセイヨウクロマグロの漁獲成功に影響を及ぼす要因

Esin Yalçın

 タイセイヨウクロマグロの旋網漁の漁獲成功に係る各種要因を検証するために,3隻の漁船による126回の操業データを用い,一般化加法モデル(GAM)による解析を行った。漁獲の有-無を目的変数とし,操業形態,漁具設計,地理的要因,海洋環境を説明変数として得られた最適モデルにおいて,漁獲の成功には海面水温の効果が最も大きいことが示された。また,他の要因(網深度,投網時間,環締時間,深度 10 m での流速,網沈降時間,網の縦-横比)による漁獲成功への効果も見られた。
(文責 安間洋樹)

88(6), 677-691 (2022)
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大型褐藻類の季節変動がアワビの移動と分布に与える影響:音響テレメトリーと空間明示モデルによるアプローチ

松本有記雄,高見秀輝

 本研究では,音響テレメトリーと UAV マッピングを併用し,エゾアワビ Haliotis discus hannai が,褐藻からの距離に応じて移動距離を変化させることを明らかにした。また,アワビの移動と大型褐藻類の季節変動を再現したモデルにより,アワビの分布が春から夏にかけて褐藻が成長するにつれてより深い水深帯に広がり,秋から冬にかけては浅場に残った大型褐藻の周りに分布が集中することを示した。本結果は,アワビが移動や漁獲効率が変化しないことを前提としてきた資源評価手法の改善の必要性を示している。

88(6), 693-701 (2022)
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台湾北東海域におけるタイワンヤモリザメ Galeus sauteri の摂餌生態

Shing-Lai Ng, Shoou-Jeng Joung

 浅海陸棚域に生息する小型サメ類であるタイワンヤモリザメ Galeus sauteri の摂餌生態を調べた。2018 年 9 月から 2019年 8 月にかけて台湾北東海域において底曳網によって採集された標本 678 個体の胃内容物を分析した結果,主要餌生物は真骨魚類と甲殻類であり,特に,ハダカイワシ類やその他の真骨魚類に特化していた。平均栄養段階は 4.29 であった。食性は成熟状態や季節によっても変化した。本種は,主にハダカイワシ類やその他の真骨魚類を餌とし,状況によって甲殻類や頭足類も餌とする捕食魚類であることが示された。
(文責 高須賀明典)

88(6), 703-720 (2022)
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生殖腺の発達段階による Parabramis pekinensis の腸内細菌叢の違い

Hailong Gu, Yaming Feng, Zhijing Yang

 長江靖江地区の Parabramis pekinensis を対象に異なる生殖腺発達段階における腸内細菌叢を解析した。生殖腺の成長段階別に,I 期では Proteobacteria が優先となり,II 期ではその割合が減った。III 期では Fusobacteria が優先となったが,IV期では Proteobacteria が優占種となり雄と雌で細菌叢に顕著な違いが見られた。一方,V 期では Fusobacteria の割合が再び上昇したものの,VI 期では雌雄ともに腸内細菌叢は I 期のものに近くなった。このような成長に伴う腸内細菌叢の変化は個体の栄養要求性をある程度反映していると考えられる。
(文責 近藤秀裕)

88(6), 721-731 (2022)
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新しい脳サイズ指標を用いたニホンウナギとマハゼの比較研究

渡辺 茂,古野公紀

 脳の背面及び側面画像の面積から算出する新しい脳サイズの指標を考案した。ニホンウナギとマハゼでこの指標を計算し,脳重と比較したところどちらの種でも高い相関を得ることができた。本指標による脳プロフィールを調べると,ウナギは相対的に大きな嗅球と大脳を持ち,ハゼは大きな視蓋を持つことがわかった。また,主成分分析を行うと 2 種が異なるクラスターを形成することがわかった。この傾向は他のウナギ,ハゼの仲間でも支持された。この指標は簡便であり,今後の比較研究のツールとして有用だと思われる。

88(6), 733-740 (2022)
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軟骨魚綱のテロメア長と酸化ストレスの検出

堀美沙樹,木村里子,水谷友一,宮側賀美,
伊藤このみ,荒井修亮,新妻靖章

 真核生物の染色体末端に存在するテロメアは,その長さが細胞分裂に伴う DNA 複製によって短縮し,DNA にダメージを与える活性酸素等の酸化ストレスによっても短縮する。よって,テロメア長とその変化は,個体が被った中長期間のコスト評価に応用されることが期待されている。本研究では,これまでテロメア長が測定されていなかった軟骨魚綱 17 種を対象とし,テロメア長測定と酸化ストレス検出に試みた。ほとんどの種で 40 kbp 以上のメガテロメアと呼ばれる長さの配列が存在し,酸化ストレスの値が低いことが確認された。

88(6), 741-750 (2022)
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揚子江中流域の支流におけるカワイワシ Hemiculter leucisculusの生活史特性

Yanfei Huang, Liangguo Liu, Chunying Yang, Wanjuan Yang, Yun Zhou, Meiqi Wu

 揚子江の支流である沅江で 2017 年 5 月から 2019 年 1 月にかけて毎月,合計 709 尾のカワイワシを採集し,生活史を調べた。産卵期は 4-10 月であり,5-6 月にピークを示した。耳石(礫石)には 5-8 月に年輪の形成が認められた。採集された個体は 0-4 歳であり,1-2 歳が主体であった。成長や成熟には緯度や生息場所間での変異は認められなかったが,体長組成や年齢構成には緯度勾配や在来個体群と移入個体群での違いがみられた。本種の安定的な生活史特性は,本種が多様な環境で優占する一因であるのかもしれない。
(文責 冨山 毅)
88(6), 751-765 (2022)
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COVID-19 がバングラデシュのエビ産業に与えた影響:バングラデシュ南西部における逐次調査に基づく事例研究

Abul Bashar, Richard D. Heal, Neaz A. Hasan, Md. Abdus Salam, Mohammad Mahfujul Haque

 COVID-19 の影響を明らかにするために,バングラデシュ南西部のエビ養殖業者 51 名と消費者 62 名を対象に 2 回の対面調査を実施した。国家的なロックダウンにより輸出市場へのアクセスや国内での移動が制限されたため,生産コストの上昇によって養殖業者の収入は減少した。労働力の削減で対応したが,共同養殖の魚類を販売した上でも大幅な減収に見舞われた。エビ類の共同養殖は,市場価格の大きな変動に対する緩和戦略としては不十分であったことから,エビ養殖漁家は養殖製品の種類の多様化を検討すべきであると考えられる。
(文責 阪井裕太郎)

88(6), 767-786 (2022)
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2021年秋季に北海道東部釧路の太平洋岸で繰り返し観測されたカレニア属プランクトンによる有害赤潮

長谷川夏樹,渡辺 剛,鵜沼辰哉,横田高士,泉田大介,
中川 亨,黒川忠英,髙木聖実,東屋知範,谷内由貴子,
黒田 寛,北辻さほ,阿部和雄

 2021年秋の道東太平洋域での赤潮発生に際し,釧路市桂恋漁港周辺でモニタリング調査を実施した。その結果,南風にともなう吹送流によるクロロフィル a 濃度や Karenia selliformisを主体としたカレニア属プランクトンの細胞密度の増加が繰り返し観測され,半閉鎖的な漁港内での高密度化と長期化も確認された。クロロフィル a 濃度と細胞密度の最高値は,それぞれ 50μg-Chl. a/L, 104 cells/mLを超え,赤潮発生時には水中の栄養塩濃度も他年と比べ特異的に推移した。水産機構釧路庁舎では,細胞密度の増加と同調して複数種の飼育魚や棘皮動物の大量へい死が発生した。

88(6), 787-803 (2022)
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紫外蛍光強度に基づくアコヤ養殖真珠の真珠層硬度およびはく離強度の間接的評価

平松潤一,岩橋徳典,永井清仁

 真珠の真珠層の強度を知ることは,品質管理上重要である。真珠層は,極少量含まれる有機成分により高い強度と靭性を備えている。本研究では,非破壊検査として,有機成分の状態の指標となる Gray Value(GV)によりグループ分けしたアコヤガイ真珠の硬度とはく離強度を調べた。その結果,GV が低くなるに従って明瞭な硬度の低下が観察され,GV がさらに低くなると真珠表面層のはく離が認められた。このことから,真珠層の耐久性の指標として GV を用いることで,真珠の品質を非破壊的に管理できることが示唆された。

88(6), 805-813 (2022)
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市販されている魚卵製品に含まれるビタミン B12化合物の特徴

山中珠美,名村美香,小関喬平,美藤友博,梅林志浩,渡邉文雄

 魚卵製品は栄養価の高い水産食品であり,ビタミン B12を豊富に含むと考えられている。しかし,魚卵製品に不活性型コリノイドが含まれているかどうかなど含有されるコリノイド化合物が同定されていない。そこで,液体クロマトグラム質量分析を用いて主要な魚卵製品のコリノイド化合物を同定した。調査した魚卵製品には不活性型コリノイド化合物は検出されず,ビタミン B12のみが含まれていた。これらの結果は,市販の魚卵製品がビタミン B12の重要な供給源となりうることを示唆している。

88(6), 815-820 (2022)
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ウツボ類に含まれるシガトキシンはベトナムの水産物の中毒リスクを高める

Ha Viet Dao, Hy Ho Khanh Le, Thao Thi Thu Le,
Ky Xuan Pham, Minh Quang Bui, Leo Lai Chan

 近年,ベトナムでは,地元住民や観光客に人気の魚介類であるウツボを食したことによるシガテラ中毒の疑いが報告されている。これまでにベトナムのウツボ類に含まれるシガトキシンに関してはほとんど知見がなかった。本研究では、ベトナムの 4 か所からウツボ類 6 種 119 個体を採取し,LC/MS 分析をおこなったところ、シガトキシンの一種である CTX-1B が 12 個体から検出された。また,検出された CTX-1B の濃度は,安全性の閾値である 10 pg/g を超えていた。本研究により、ベトナムのウツボにおいて初めて CTX-1B の存在が報告され,これらはウツボの消費によるシガテラ中毒のリスクを示唆するものである。
(文責 高田健太郎)

88(6), 821-830 (2022)
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ワニエソ Saurida wanieso 内臓魚醤油の抗酸化作用およびアンジオテンシンI変換酵素阻害作用とアミノ酸プロファイルとの関連

鐘 嬋,耿 婕婷,岡﨑恵美子,大迫一史

 異なる 3 つの条件で発酵させたワニエソ内臓醤油の抗酸化性とアンジオテンシン I 変換酵素(ACE)阻害作用を調べ,アミノ酸組成との関係を検討した。分子量 3 kDa 以下のペプチドが 50%以上を占め,魚醤の生物活性に寄与していることがわかった。また,塩分濃度が低く,pH 11.0,40℃の低塩分で発酵した魚醬において,顕著な ACE 阻害活性および抗酸化能が認められた。さらに,ペプチド中の脂肪族アミノおよび正電荷のアミノ酸残基は,抗酸化活性および ACE 阻害活性に関与していることを示唆された。

88(6), 831-843 (2022)
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日本のアキサケと日本酒の組み合わせに対するフランスの消費者の限界支払意思額

大石太郎,杉野弘明,八木信行

 本研究では,調査対象者をフランスの消費者,評価対象を日本(北海道)産のアキサケのグリルと日本酒として,外食店でのメニュー提示の際にそれらの組み合わせでの提案と単品での提案における消費者の支払意思額(WTP)の差を仮想評価法(CVM)で経済評価した。また,Tobit 回帰を適用することでその規定要因を分析した。アキサケと日本酒の組み合わせで提示した場合,単品での提示よりも高い支払意思額が存在することが見出された。食べ物と飲み物の産地の地理的同一性は,産地ブランドの相乗効果を通じて正の価値を生み出す可能性がある。

88(6), 845-856 (2022)
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