Fisheries Science 掲載報文要旨

アメリカ合衆国における遊漁―経済,管理戦略,生態系への脅威(総説)

Robert M. Hughes(オレゴン州立大,米国)

 アメリカ合衆国では遊漁は長い歴史を有する。先住民の自給自足的漁業に端を発し,後に入植者の自給自足的漁業が加わった。海産,淡水産,通し回遊種の脊椎・無脊椎動物を対象とする。本論文は,遊漁の定義,アメリカにおける遊漁の主な技術,地域別対象種,社会経済的価値についてレビューするとともに,その管理戦略や生態系への主な脅威について議論する。
(文責 山川 卓)

81(1), 1-9 (2015)
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ウナギの人工種苗生産技術の進歩(総説)

田中秀樹(水研セ増養殖研)
 ウナギ資源の減少が危惧されており,これまで天然の稚魚に依存していた養殖用種苗を人工生産する技術の開発が急務となっている。近年,謎に包まれていたニホンウナギの生活史解明が急速に進み,人為催熟技術や人工ふ化技術も改良が進められてきた。ふ化仔魚の人工飼育に利用できる餌が開発されたことにより,2002 年にはシラスウナギまでの飼育に成功,2010 年には人工ふ化第 2 世代が誕生し,天然資源に依存しないウナギの養殖技術が開発された。今後はシラスウナギの安定的量産技術を開発することが強く望まれている。
81(1), 11-19 (2015)
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韓国漁業における漁船買戻しプログラム下における生産性の変化

Sang-Go Lee,Amaj Rahimi Midani(釜慶大学,韓国)

 韓国の漁業は,免許数,漁具,操業区域,漁網の網目サイズなどを制限するインプットコントロールによって主に管理されている。韓国政府は水産資源減少を受け,漁船の買戻しなどの政策を実施した。しかしながら,その効果や,買戻し対象の漁業選択などを巡る議論が存在する。そこで本研究では,韓国の 18 漁業種における 1992 から 2012 年までの漁船数,漁船トン数,漁業生産金額を用い,データ包絡分析法(DEA)によって漁業種類ごとの生産性を計算した。この結果,漁船買戻しは一定の効果があった点,沿岸 2 漁業と沖合 1 漁業については更に減船が必要である点などが判明した。
(文責 八木信行)

81(1), 21-28 (2015)
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アユ Plecoglossus altivelis よりクローン化した新奇 IgT 遺伝子の発現解析

加藤豪司,高野倫一,坂井貴光,松山知正,
佐野菜採,中易千早(水研セ増養殖研)

 アユ免疫グロブリン(Ig) T 遺伝子を単離し,その遺伝子発現動態を解析した。アユ IgT は三つの Ig 定常ドメインからなる新奇の構造を有していた。IgT 遺伝子は脾臓,頭腎,体腎および鰓で強く発現していた。In situ ハイブリダイゼーションにより IgT および IgM 陽性細胞は腎臓中に散在していることが示された。さらに,ビブリオ病不活化ワクチンを投与したアユの鰓および腎臓では IgT および IgM 遺伝子の発現量が上昇していた。アユ IgT は細菌感染に対する免疫応答において IgM 同様に機能を有することが示唆された。

81(1), 29-36 (2015)
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長良川において友釣りにより釣獲されたアユの由来と体長の経月変化

間野静雄,淀 太我,吉岡 基(三重大院生資)
 アユ放流種苗が天然遡上個体の成長に与える影響の把握を目的に,人工,琵琶湖産,海産の各種苗が放流されている長良川において,2010 年 6-10 月に友釣りで釣獲した 94 個体の由来を判別し,各由来の比率と体長の経月変化を調査した。天然遡上個体の比率は期間前半には少なかったが,経時的に増加し,9 月以降は優占した。また,体長は 7 月には各種苗より小さく,8 月以降に差は無くなったが,前月からの増加もみられなくなることから,放流種苗による天然遡上個体のなわばり獲得の抑制と,友釣りによる大型個体の除去が示唆された。
81(1), 37-42 (2015)
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フィリピン北西部ボリナオの海面養殖による水質汚染が周辺藻場に生息する魚類 2 種の食性,成長,現存量に与える影響

渡井幹雄(高知大院農),中村洋平(高知大院黒潮),
本多健太郎(北大フィールド科セ),
Klenthon O. Bolisay(フィリピン大海洋研),
宮島利宏(東大大気海洋研),
仲岡雅裕(北大フィールド科セ),
Miguel D. Fortes(フィリピン大海洋研)

 サバヒー養殖が盛んな海域の海草藻場において,養殖による水質汚染度が異なる 4 地点でフチドリカワハギとオオスジヒメジの食性,成長,個体数密度を比較した。消化管内容物組成をみてみると,どちらの種も汚染度が低い地点では葉上性動物の割合が,汚染度が高い地点では動物プランクトンの割合が高かった。どちらの種の個体数も地点間で有意な違いは認められなかった。成長率については,フチドリカワハギは地点間で有意な違いは認められなかったが,オオスジヒメジでは汚染度の高い地点で低い傾向が認められた。

81(1), 43-51 (2015)
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台湾北部沖で採集されたアオリイカの季節コホート間における生活史特性の変異

Chih-Shin Chen,Jing-Yu Chen,
Chiao-Wen Lin(国立台湾海洋大,台湾)

 2009 年 4 月から翌 3 月にかけて台湾北部沖で採集したアオリイカの平衡石から,本種の成長と成熟の特性を明らかにし,季節コホート間での差異を検討した。解析した雌 142 個体,雄 129 個体のうち,最高齢個体は雌 216 日齡(外套長355 mm ML),雄 209 日齡(345 mm ML)であった。ふ化日は 1 月と 2 月を除く周年にわたり,5 月と 8-9 月にピークがあった。雄は雌よりも成長が速く,また雌は雄よりも高齢かつ大きな体長で成熟した。雌雄とも,高水温期にふ化した個体は高成長を示す傾向が認められたものの,コホート間の違いはわずかであった。
(文責 益田玲爾)

81(1), 53-64 (2015)
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卵黄形成抑制活性を有するシバエビ血糖上昇ホルモン族ペプチドの単離

福島 翠(日大生物資源),甲高彩華(神奈川大理),
筒井直昭(岡山大臨海),朝比奈潔(日大生物資源),
泉 進,大平 剛(神奈川大理)

 シバエビのサイナス腺から 4 種類の血糖上昇ホルモン族ペプチド(Mej-SGP-I~IV)を単離した。それらの生物活性を調べた結果,全てに有意な卵黄形成抑制活性が観察された。4 種類の中で最もサイナス腺含量が多く,卵黄形成抑制活性が強かった Mej-SGP-III については cDNA クローニングを行った。その結果,Mej-SGP-III はクルマエビ属のエビ類の卵黄形成抑制ホルモンと 67% の相同性を示した。

81(1), 65-72 (2015)
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16S rRNA 遺伝子の 5′側高変異領域を用いたホタテガイ類の DNA バーコーディング

マリン・アラン,藤本貴史,
荒井克俊(北大院水)

 DNA バーコーディングに広く用いられているミトコンドリア DNA の COI 遺伝子,いわゆる Folmer 領域の PCR 増幅はホタテガイ類の種判別には不適である。ホタテガイ類(イタヤガイ科)15 種の 16S rRNA 遺伝子を調べたところ,5′側が 3′側領域の倍以上の変異を含んでいた。そこで,この 5′領域について科に特異的なプライマーを設計し,それらの有効性を検討した。その結果,分析したすべての標本の正確な種判別が可能であったことから,新たな DNA バーコーディングのツールとなることが判明した。

81(1), 73-81 (2015)
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低魚粉飼料にて成長選抜して得られたアマゴ F2 稚魚は非選抜群に魚粉飼料を与えた場合と同等の成長を示す

山本剛史,村下幸司,松成宏之,奥 宏海,
古板博文,岡本裕之(水研セ増養殖研),
天野俊二,鈴木伸洋(東海大)

 低魚粉(魚粉 5%)飼料にて二世代に亘り成長選抜して得られた稚魚(LFM-S)および魚粉飼料にて特段の選抜をせずに得られた稚魚(FM-M)に,低魚粉飼料および魚粉 50% 飼料を 10 週間与えた。LFM-S の飼料効率は FM-M より改善し,低魚粉飼料を与えた LFM-S の摂餌率は同飼料を与えた FM-M より高かった。その結果,必須アミノ酸を添加した低魚粉飼料を与えた LFM-S の成長は,魚粉飼料を与えた FM-M と同等であった。以上の結果から,低魚粉飼料によるアマゴの成長選抜は,低魚粉飼料でも成長の良い家系を得るための有効な手法であることが示唆された。

81(1), 83-93 (2015)
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魚粉を動物性タンパク源または植物性タンパク源で代替した際のニジマスの成長成績およびアミノ酸の消化吸収率

呂 鋒,芳賀 穣,佐藤秀一(海洋大)

 魚粉飼料を対照として,魚粉の 75 から 100% を家禽副産物(PBM),フェザーミール(FEM),血粉(BM)の混合物またはそれらと脱脂大豆油粕およびコーングルテンミールで代替した飼料をニジマスに 12 週間給餌した。
 魚粉を動物性タンパク源で代替した飼料を摂餌したニジマスの成長は,対照区に匹敵する成長成績を示した。魚粉と動物性タンパクの混合飼料を与えたニジマスの摂餌率は,魚粉のみの飼料より有意に優れた。タンパク質消化率は,魚粉 75% を動物性タンパク源よりも植物性タンパク源で代替した飼料の方が有意に高かった。

81(1), 95-105 (2015)
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スジアラの生残,成長,消化酵素活性,体組成に及ぼす水温の影響

Zhijing Sun,Sudong Xia,
Shouming Feng(天津水産研究所),
Zhenkui Zhang(天津水産技術普及所,中国),
Mohammad Mustafizur Rahman,
Mayalagu Rajkumar(マレーシア国際イスラム大学,マレーシア),
Shuguang Jiang(天津水産研究所)

 スジアラの生残,成長,消化酵素活性,体組成に及ぼす水温の影響を検討するために,水温 15, 20, 25, 30, 35℃ で 26.5 g の稚魚を 6 週間飼育した。その結果,生残率は 15℃ で最も低く,20-30℃ においては 100% であり,35℃ より有意に高かった。また,15℃ および 35℃ では体重が減少したが,30℃ では成長,摂餌,プロテアーゼ活性が最も高かった。同様に魚体のタンパク質および脂質含量も 30℃ で最も高い値であった。これらの結果から,スジアラの飼育には 30℃ が最も適していると考えられた。
(文責 佐藤秀一)

81(1), 107-112 (2015)
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完全養殖太平洋クロマグロ雄性に関連した DNA 配列の同定

阿川泰夫,岩城真結,小宮貴文,
本領智記,田村浩平(近大水研),
岡田 宰(北海道システムサイエンス(株)),
柳下直己,小林 徹(近大水),
澤田好史(近大水研)

 太平洋クロマグロ雄 DNA マーカー Md6 の配列を,F3 雌雄の AFLP-PCR 増幅産物より同定した。Md6 は雌雄に頻繁に見られた配列に比べ連続する 6 塩基欠損が特徴的だった。PCR 法で性判別する為プライマーを設計し検査した結果,F2 雄 69.2% (n=13),F3 雄 90.6% (n=32)が検査陽性であった。一方雌では F2 雌すべて陰性(n=12),F3 雌 3.1% (n=32)が検査陽性だった。産卵参加親魚を,SSR を用いて推測した結果,F2 雄 Md6 陽性個体が陰性の物よりもはるかに高確率である事が推測された。以上より,同種は養殖条件下で Md6 が F2 より F3 へ遺伝し,雄ヘテロの性染色体対を有すると考えられた。

81(1), 113-121 (2015)
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八代海における Chattonella 赤潮発生前の気象条件および東アジアモンスーンとの関連性

鬼塚 剛(水研セ瀬水研),
青木一弘,清水 学(水研セ中央水研)

 八代海において,Chattonella 赤潮と気象条件の関係を調べた。赤潮発生日と 2 月から 4 月の気温および九州南部梅雨入り日との間で有意な相関関係が認められた。これら 2 つの気象因子は赤潮の発生年・非発生年で顕著な違いを示し,冬から春に暖かく,梅雨入りが遅い年に赤潮が発生する傾向があった。梅雨明け日と赤潮発生日の間隔が短いほど赤潮継続期間は長く,梅雨時の栄養塩供給が赤潮規模に影響していることが示唆された。ローカルな気象条件を支配する東アジアモンスーンが Chattonella の生活様式や生理特性を通じて個体群動態に関与している可能性がある。

81(1), 123-130 (2015)
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炭素・窒素・硫黄安定同位体比から推定されたカワウ Phalacrocorax carbo hanedae の東日本内陸部の長野県北部域への移入

棗田孝晴,坂野博之,
鶴田哲也(水研セ増養殖研上田庁舎),
亀田佳代子(琵琶湖博),
井口恵一朗(水研セ増養殖研上田庁舎)

 2007-2008 年の冬と春に長野県北部域で駆除された魚食性鳥類カワウ 24 検体とアオサギ 9 検体について,3 つの安定同位体比(δ13C, δ15N, δ34S)を用いて彼らの移入と生息場所を推定した。初列風切羽の同位体比(δ13C, δ15N)は個体間で変異し,この部位の濃縮係数から推定されるカワウ餌生物の同位体比は換羽後の沿岸帯摂餌を支持しなかった。換羽後に沿岸帯での摂餌履歴を持つカワウ(δ34S>10‰)の比率(16.7%)は低く,その大部分が内陸部で淡水魚を捕食していることが示唆された。

81(1), 131-137 (2015)
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常磐-三陸沖合,仙台湾および親潮域の海水および動物プランクトンにおける東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う 134Cs および 137Cs 濃度の時系列変動

帰山秀樹,藤本 賢,安倍大介,
重信裕弥,小埜恒夫(水研セ中央水研),
田所和明,岡崎雄二,筧 茂穂,
伊藤進一,成松庸二(水研セ東北水研),
中田 薫,森田貴己(水研セ本部),
渡邊朝生(水研セ中央水研)

 2011 年 6 月から 2013 年 12 月までの期間,東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う 134Cs および 137Cs の海水および動物プランクトンへの移行を明らかにした。海水の 137Cs 濃度は 2011 年 6 月に 1.0 Bq/kg 以上まで上昇した後,時間の経過とともに急激に低下した。動物プランクトンの 137Cs 濃度も 2011 年 6 月に 23 Bq/kg-wet まで上昇した後,緩やかに低下した。海水の 137Cs 濃度と動物プランクトンの「見かけの濃縮係数」の間には負の相関が認められ,両者の関係を用いることで,当該事故による動物プランクトンの汚染状況の時系列変動を記述できる可能性が示唆された。

81(1), 139-153 (2015)
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ホタテガイ Mizuhopecten yessoensis キャッチ筋カルポニンの分子構造特性

舩原大輔(三重大院生資),渡部終五(北里大海洋),
加納 哲(三重大院生資)

 ホタテガイ・キャッチ筋カルポニンの全長塩基配列を決定した。カルポニンの分子量は 42,154(384 アミノ酸残基)と推定された。1 つのカルポニンホモロジードメインおよび 5 つのカルポニンドメインが並ぶ構造をしていた。ムラサキイガイ・カルポニンと 64% のアミノ酸同一率を示した。カルポニン遺伝子は主にキャッチ筋で発現していた。より高分子量のアイソフォームが横紋筋に存在する可能性が示された。

81(1), 155-162 (2015)
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メダカにおけるリポプロテインリパーゼ遺伝子発現の組織分布

王 璐,金子 元,高橋伸一郎(東大院農),
渡部終五(北里大学・東大院農),
潮 秀樹(東大院農)

 リポタンパク質リパーゼ(LPL)はリポタンパク質の代謝に重要な役割を果たすことが明らかにされている。本論文では,メダカ LPL1 遺伝子をクローニングするとともに,その転写産物の組織分布を調べた。メダカ LPL1 遺伝子は 516 個のアミノ酸から成るタンパク質をコードしており,他の脊椎動物 LPL1 と比較して機能発現に重要とされる配列はほぼ保存されていた。また,LPL1 遺伝子の転写産物はいずれの組織でもみられたが,肝臓,脂肪組織のほか脳でも高い発現が認められたことから,その生理機能について興味が持たれた。

81(1), 163-173 (2015)
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トゲノコギリガザミ Scylla paramamosain 由来グルタミン酸デヒドロゲナーゼ:cDNAクローニング,組織別発現解析および低浸透圧ストレスへの応答

Jing-Ying LU,Miao-An SHU,
Bing-Peng XU,Guang-Xu LIU,
You-Zhi MA,Xiao-Ling GUO,
Yu LIU(浙江大学,中国)

 トゲノコギリガザミ Scylla paramamosain から,グルタミン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(GDH)の cDNA クローニングを行った。当該 GDH 遺伝子は,533 アミノ酸残基のタンパク質をコードしていると考えられ,筋肉で高発現していた。本種を急激に低塩分環境に移すと,血リンパの浸透圧が有為に低下するとともに,筋肉における GDH の発現も低下し,それに伴い筋肉中の総遊離アミノ酸濃度も低下した。血リンパ中の総遊離アミノ酸濃度は,対照的に上昇したことから,GDH は S. paramamosain における浸透圧調節に関与しているものと考えられた。
(文責 岡田 茂)

81(1), 175-186 (2015)
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サンゴイソギンチャク由来のタイプ 3 ナトリウムチャネル毒 PaTX のサワガニ毒性発現に重要なアミノ酸残基

河野晃徳(海洋大),本間智寛(東海大短期),
塩見一雄(海洋大)

 イソギンチャクのタイプ 3 ナトリウムチャネル毒の構造活性相関は,ATX III の一例でしか報告がない。また ATX III は他のタイプ 3 毒とはかけ離れた一次構造を有するため,その結果をそのままタイプ 3 毒に適用できない。本研究では,タイプ 3 毒の構造的特徴をよく表した PaTX をモデルとして各種類縁ペプチドを化学合成し,サワガニに対する毒性を指標に構造活性相関を検討した。その結果,正電荷を帯びた Lys-4, His-27,疎水性の Tyr-15, Pro-20, Trp-21 が活性の発現に特に重要であることが分かった。

81(1), 187-192 (2015)
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チュウゴクモクズガニ加工残滓の栄養素と呈味成分

Yan-Ru Guo,Sai-Qi Gu,
Xi-Chang Wang,Ke-Jin Zhuang,
Shuai Wang,Jing Shi(上海海洋大,中国)

 本研究では,チュウゴクモクズガニの加工残滓を内臓(EV)とそれ以外の部位(RTs)に分けてその栄養素と呈味成分を評価した。EV では脂質が,RTs ではタンパク質が多く含まれていた。両残滓とも Zn, Fe, Cu の供給源としての可能性があり,また脂肪酸では,全脂肪酸の 75% が不飽和脂肪酸であった。EV と RTs のアミノ酸含量はそれぞれ 77.62 g/100 g と 66.74 g/100 g であった。Ala, Glu, Arg が呈味を示す主要な遊離アミノ酸であった。AMP, IMP 及び GMP の濃度は,EV で各成分の閾値より低く,RTs では閾値より高かった。うまみに相当する濃度は,EV で 2.71 g MSG/100 g,RTs で 9.00 g MSG/100 g であり,両残滓はうまみを有することが示唆された。
(文責 森岡克司)

81(1), 193-203 (2015)
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